舌鼓したつづみ)” の例文
舌鼓したつづみうつ)たったったっ、甘露甘露。きゃッきゃッきゃッ。はて、もう御前おんまえに近い。も一度馬柄杓でもあるまいし、猿にも及ぶまい。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何を愚頭々々ぐずぐずしていると云わぬばかりに、此方こちらめつけ、時には気をいらッて、聞えよがしに舌鼓したつづみなど鳴らして聞かせる事も有る。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
初がつおに舌鼓したつづみを打ったのは、煮たのでも、焼いたのでもない。それは刺身さしみと決まっている。この刺身、皮付きと皮をぐ手法とがある。
いなせな縞の初鰹 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
先生はそれに禁圧のせきを伏せて本能の流勢を盛り上らせます。先生は全身にその強い抵抗を感じて、官能の舌鼓したつづみを打ったかも知れません。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼は舌鼓したつづみをうって、案内者なしに妻と二人ふたり西を指して迦南カナンの地を探がす可く出かけた。牧師は玉川の近くで千歳村ちとせむらだと大束おおたばに教えてくれた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
羅漢はその箱弁を、まるで大変なご馳走のように、舌鼓したつづみを打って食べた。いじきたなさを丸出しにしたみたいな食い方だった。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
そして捨鉢すてばち舌鼓したつづみの音が聞えたかと思ふと、黒板を背にして呆然と、まるで影法師か何かのやうに立ちすくんでしまつた。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
生味噌と梅干と玄米くろごめの飯という簡単なものであったが、夜来の空腹は、これに舌鼓したつづみを打ってむつみ合うに充分なほど、人々の慾を謙虚けんきょにしていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
酒呑童子しゅてんどうじはこういって、こんどはましい人間にんげんにくしました。頼光らいこうたちはそのにくって、さもうまそうに舌鼓したつづみをうちながらべました。
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
折から家内一同なんの祝いか、重箱に詰められた赤飯を茶碗ちゃわんに移しつつ、しきりに舌鼓したつづみを打ってる最中、不意の客来にみなみな慌てて食具を背後に隠した。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
あまつさえ自分一人が幸運に舌鼓したつづみを打って一つなべ突付つッついた糟糠そうこうの仲の同人の四苦八苦の経営を余所々々よそよそしく冷やかにた態度と決して穏当おだやかでなかったから
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
正月以来絶えて口にしなかった肉の味に舌鼓したつづみを打ちながら、H氏と私とが「いずれまた秋頃までには帰って来るよ」(本当に、二人ともその予定だったのだ)と言うと
舌鼓したつづみをでも打つように、一句々々をむさぼるように読みおわると、彼は腹を抱えんばかりに哄笑こうしょうした。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
いま一人の娘を犯して舌鼓したつづみを打っても、その快楽を償うてあまりある苦痛をいつか本当に受けなくてはならなかったらどうだろう。酷い酷い肉体的苦痛を報いられたらどうだろう。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
樫谷三七郎は舌鼓したつづみでも打ちたい様子でした。極度に掛り合いを怖れたその当時の群衆は、よしや、眼の前で人殺しがあったところで、黙って見て、黙って引揚げてしまったことでしょう。
高い男はしずかに和服に着替え、脱棄てた服を畳みかけて見て、舌鼓したつづみを撃ちながらそのまま押入へへし込んでしまう。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
代って舌鼓したつづみうちたいほどのあま哀愁あいしゅうが復一の胸をみたした。復一はそれ以上の意志もないのに大人おとな真似まねをして
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
余は舌鼓したつづみうって、門をたゝいて、しいて開けてもらって内に入った。内は真闇まっくらである。車夫に提灯ちょうちんを持て来させて、妻や姉妹に木曾殿きそどのとばせをの墓を紹介しょうかいした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
酒呑童子しゅてんどうじ一息ひといきみほして、これもさもうまそうに舌鼓したつづみをうちながら
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
天堂一角は、朝酒の一杯に舌鼓したつづみをうって、飲みほしながら
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
万七は大きく舌鼓したつづみを打ちます。
それから日に/\秋風あきかぜをこゝに見せて、其薄紫の穂が白く、青々とした其葉が黄ばみ、更に白らむ頃は、漬菜つけなを洗う七ちゃんが舌鼓したつづみうつ程、小川の水は浅くなる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
舌鼓したつづみを打ちながら文三が腹立しそうに書物を擲却ほうりだして、腹立しそうに机に靠着もたれかかッて、腹立しそうに頬杖ほおづえき、腹立しそうに何処ともなく凝視みつめて……フトまた起直ッて、蘇生よみがえッたような顔色かおつきをして
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
と、舌鼓したつづみを打って
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)