膨脹ぼうちょう)” の例文
そうすると腹の中へ行ってにわかに沸騰して胃を膨脹ぼうちょうさせるから直ぐ癒る。吃逆は筋肉がるのだから反対に膨脹させるのが一番だ。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
腐敗すると、その結果、ガスが発生し、それが細胞組織やあらゆる体腔たいこう膨脹ぼうちょうさせ、またあの怖ろしい脹れ上がった形相ぎょうそうにさせる。
経済的には膨脹ぼうちょうしていても、真の生活意識はここでは、京都の固定的なそれとはまた異った意味で、頽廃たいはいしつつあるのではないかとさえ疑われた。
蒼白い月 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
限りなき星霜せいそうを経てかたまりかかった地球の皮が熱を得て溶解し、なお膨脹ぼうちょうして瓦斯ガスに変形すると同時に、他の天体もまたこれに等しき革命を受けて
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
水が凍る場合、その体積が約一割膨脹ぼうちょうすることも、その膨脹の圧力が零下数度で既に千気圧近くにも達する恐ろしい量であることも、周知の通りである。
永久凍土地帯 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
そして彼が義元の帷幕いばくに参じてから、今川家の国勢は急激に膨脹ぼうちょうした。覇業の階梯かいてい徐々じょじょに踏んで来たのである。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金貸をして利息を取りながら親分肌を見せては段々と自分の処へ出入するさむらいどもを手なずけてついに伊豆相模に根を下し、それから次第に膨脹ぼうちょうしたのである。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
日清戦争後、特に日露戦争後、急激に東京が膨脹ぼうちょうし始めたとき、この木造建築の無制限な増加が大火に対していかに危険であるかはすでに顧慮さるべきはずであった。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「しかしこんなに膨脹ぼうちょうしては、名は小でも、邪魔になるね。なぜわざわざ取り寄せたのだ。」
二人の友 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
何かしら機械的な仕事でも同じになるはずだと推論して、そこで今度はそれとは反対に、ある器に入れてある気体を、圧力にさからって膨脹ぼうちょうさせてみると、気体が機械的な仕事をしただけ
ヘルムホルツ (新字新仮名) / 石原純(著)
誰かがベッと、つばいて、そう叫びました。それが聞えたのか、ルナ・アミーバーは、草餅くさもちをふくらませたように、プーッと膨脹ぼうちょうを始め、みるみるうちに、硝子樽ガラスだる一ぱいにひろがりました。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
第一次世界大戦——これを欧州大戦と当時言っていたが、それに参戦して青島攻略と南洋群島の占領に成功した日本は、そのころ、急激に工業力を膨脹ぼうちょうさせ、そして近代的な工業国になった。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
国外交通の隆盛、国富の膨脹ぼうちょう、各氏族の強大、あるいは人口増殖等によって国力は充実するとともに、由緒ゆいしょある氏族ならびに諸民の思想と生活をべることは容易ならぬ困難を伴ったであろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
今しも台所から出て来たこの家の下男の一作が、赤飯せきはん握飯にぎりめしを一個遣って追払おうとするのを、女はイキナリ土の上に払い落して、大きく膨脹ぼうちょうした自分の下腹部したはらを指しながら、頭を左右に振った。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その頃のむかしに比べると、最近の東京がいちじるしく膨脹ぼうちょうし、いちじるしく繁昌して来たことは云うまでもない。その繁昌につれて、東京というものの色彩もまたいちじるしく華やかになった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それが実現されると進んで対外的に膨脹ぼうちょうすることを欲求する。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
国家が危くなれば個人の自由がせばめられ、国家が泰平たいへいの時には個人の自由が膨脹ぼうちょうして来る、それが当然の話です。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのため、館の大家族形態は、膨脹ぼうちょうするし、郷民は殖える一方であったが、急開拓の火田法かでんほうなども用いて、およそ二年半、死にもの狂いに、結束して働いた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うずらなんぞは多く空気を吹込んで売っています。ふくれて肥えたようでもその実は空気で膨脹ぼうちょうしているのです
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
初期の移住者の丸太小屋、中期の住宅、戦後急激に膨脹ぼうちょうしたおびただしい住宅街などが、一度に見られるので、非常に面白かった。アラスカの動きがよく分るような気がした。
アラスカ通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
どこの国にも沢山ある、極て普通な出来事である。西洋の新聞ならば、紙面の隅の方の二三行の記事になる位の事である。それが一時世間の大問題に膨脹ぼうちょうする。所謂いわゆる自然主義と聯絡れんらくを附けられる。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
いつ何時なんどき気候の劇変と共に、急に発達して御母堂のそれのごとく、咄嗟とっさかん膨脹ぼうちょうするかも知れません、それ故にこの御婚儀は、迷亭の学理的論証によりますと
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
為に全軍の旗は、進みゆくほどその数を増し、兵力は一里一里にも目に見えて膨脹ぼうちょうしてゆく。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小山「今の問題にイーストで製したパンは何故なにゆえ消化きやとあるね」中川「ウム、イーストは醗酵性はっこうせいのものでチャスターゼを含むから澱粉でんぷんの消化を助けるのと膨脹ぼうちょうしているからよく胃液を ...
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
彼は平生から閑静なうちにどこか気楽な風を帯びている男であったが、猪口を重ねるにつれて、その閑静がほてってくる、気楽はしだいしだいに膨脹ぼうちょうするように見えた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
聞説きくならく淮南わいなんの大兵二十余万とかいっています。しかし、烏合うごうの衆でしょう。なぜならば、袁術はここにわかに、帝位につかんという野心から、急激にその軍容を膨脹ぼうちょうさせました。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼が結婚後家計膨脹ぼうちょうという名義のもとに、毎月まいげつの不足を、京都にいる父から填補てんぽしてもらう事になった一面には、盆暮ぼんくれの賞与で、その何分なんぶんかを返済するという条件があった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
魏が膨脹ぼうちょうを欲するのは、たとえば伸びる生物の意欲みたいなものですから、その意欲をほかへ向けかえて、ほかへ伸展し、ほかへその精気をそそがしめれば、即ち当分のうちは、蜀は無事を
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
個人的ならざるべからざる文芸上の批判を国家的に膨脹ぼうちょうして、自己の勢力をるの具となすならば、政府はまた文芸委員を文芸に関する最終の審判者の如く見立てて、この機関を通して
文芸委員は何をするか (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と宋江はこの途方もない人員の膨脹ぼうちょうをみて一同へはかった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手拭の運動につれて、圭さんの太いまゆがくしゃりと寄って来る。鼻の穴が三角形に膨脹ぼうちょうして、小鼻がぼっとして左右に展開する。口は腹を切る時のように堅く喰締くいしばったまま、両耳の方までけてくる。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれども彼の頭の中の隙間すきまが、瓦斯ガスに似た冒険だん膨脹ぼうちょうした奥に、彼は人間としての森本の面影おもかげを、夢現ゆめうつつのごとく見る事を得た。そうして同じく人間としての彼に、知識以外の同情と反感を与えた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)