羽子はね)” の例文
妙子は床の上へ半身起き直って、覚束ない手付き乍ら、昔取った杵柄で、何んかをくちずさみ乍ら暫らくは器用に羽子はねを突いて居りましたが
或る日の事、美代子さんはおうちの前でたった一人で羽子はねをついていますと、一人の支那人が反物を担いで遣って来て、美代子さんのおうちの門口で
クチマネ (新字新仮名) / 夢野久作海若藍平(著)
どこからか外れ飛んで来た羽子はねが、ヒョイと壁辰の襟首えりくびに落ちた。女の児が追っかけて来てさわぎ立てる。壁辰は、にっこり掴み取って、投げ返した。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
換言すれば、二枚の羽子板の間の羽子はねのように、遊民と暴民との間を常に行ききするように作られてる者ではない。
そしてアデェルがパイロットとふざけたり羽子はねをついたりして遊んでゐる間に、彼は、アデェルからも見える長いぶなの並木路を歩いて見ないかと私を誘つた。
外には羽子はねの音、万歳まんざいつづみ——。そして、ふと万吉の耳に、角兵衛獅子の寒げな太鼓が耳についた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
庸三の長女は女中を相手に春の用意に忙しかったが、瑠美子は十畳の子供部屋で、栄子と羽子はねをついていた。大きい子供たちの中には、銀座へ出て行ったものもあった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
道理だうりで、そこらの地内ちない横町よこちやうはひつても、つきとほしのかうがいで、つまつて、羽子はねいてるのが、こゑけはしなかつた。割前勘定わりまへかんぢやうすなは蕎麥屋そばやだ。とつても、まつうちだ。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
羽子はねの衰えた蜻蛉とんぼは、赤く色づいた柿の葉に止っては立ち上り、また下りて来て止っている。磐の音は穏かに、風のない静かな昼に響いた。じっと僧は立止って、お経を唱えている。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
羽子はねが有れば羽子突き、駈けツくらや、飛びツ競のやうな單純な事をしても、心が其の事イツパイ、其の事が心イツパイで、そして嬉々洋々として、遊技もすれば、學問もしたのが
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
うるはしえたる空は遠く三四みつよついかの影を転じて、見遍みわたす庭の名残なごり無く冬枯ふゆかれたれば、浅露あからさまなる日の光のまばゆきのみにて、啼狂なきくるひしこずゑひよの去りし後は、隔てる隣より戞々かつかつ羽子はね突く音して
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そして市区がすっかり改正されて、道路も舗装道になっているし、一月の時には三筋町の通りで羽子はねなどを突いているのが幾組もあった。まがり角が簡易食店で西洋料理などを食べさせるところ。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
あひにくうそ寒い曇日ではあつたが、往來には羽子はねをつく者もあつた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
そういう意識の下に羽子はねをついて見せた、ということになるらしい。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
何をしてるのかと聞くと、羽子はねをついてるのだというのです。
香奠 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
向き/\に羽子はねついてゐる広場かな
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
戸のには羽子はねく音す。
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
死骸からむしり取って行ったのだろう——凧糸に羽子はねはさんだのは、竜吉の床の側にあった羽子を使って、自害と見せかけた細工だ
このときアデェルが羽子はねを持つて彼の方に駈けて來た。「あつちへ!」彼は亂暴に呶鳴りつけた。
花子さんは夢中になってお友達と羽子はねをついているうちに、羽子板のうらの美しい姉さんの顔の頬ぺたが、いつの間にか羽子のムクロジに当って、ポコンとへこんでいるのを見つけました。
黒い頭 (新字新仮名) / 夢野久作海若藍平(著)
ある時私は、柳編みの羽子板はごいたと、黄や青や緑の羽毛のついた羽子はねとを、お前に買ってやったことがある。お前はもう忘れているでしょう。お前はごく小さい時はほんとにいたずらだった。
お庄らは田舎から持って来た干栗ほしぐりや、氷餅こおりもちの類をさも珍しいもののように思ってよろこんだ。正月にはお庄も近所の子供並みに着飾って、羽子はねなど突いていたが、そのころから父親は時々家をあけた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
渋蛇目傘しぶじゃのめを開いたままで、袖摺そでずれに引着けた、またその袖にも、霏々ひひと降りかかって、見る見るびんのおくれ毛に、白い羽子はねが、ちらりと来て、とまって消えては、ちらりと来て、消えては、飛ぶ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
戸をさしてとぼその内や羽子はねの音 毛紈もうがん
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
羽子はねをつく手をとめて道教へくれ
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
娘お妙が、床の上で羽子はねをついたというのは、あの白々とした窓でしょう。今日は障子がしまって、なんにも見せてはくれません。
羽子はねつきの羽子のようなものを頭にかぶり手に棍棒こんぼうを持ってまっ裸で歩く蛮人も、この得業士どもほどひどくはない。取るに足らぬ小猿のくせに、尊大で傲慢ごうまんで、評議したり理屈をこね回したりする。
と美代子さんは矢張やは羽子はねをつきながら、又口真似をしました。
クチマネ (新字新仮名) / 夢野久作海若藍平(著)
つまとりてひとしずか羽子はねをつく
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
向うの家の窓の中で、お妙が床の上へ坐ったまま、赤い襦袢じゅばんの袖をチラチラさせて、羽子はねをついてるのを見ると、朝倉屋の倅の竜吉も我慢が出来なくなった。
それは一羽の赤い羽子はねを持った鸚鵡であった。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
大空に羽子はねの白妙とどまれり
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
その羽子はねが羽ばたけば
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)