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見遍
見遍せば両行の
門飾は一様に枝葉の末広く
寿山の
翠を
交し、
十町の
軒端に続く
注連繩は、
福海の
霞揺曳して、繁華を添ふる春待つ景色は、
転た
旧り行く
歳の
魂を
驚かす。
彼は人々の
更互におのれの
方を
眺むるを見て、その手に形好く
葉巻を持たせて、
右手を
袖口に差入れ、少し
懈げに床柱に
靠れて、目鏡の下より下界を
見遍すらんやうに
目配してゐたり。
麗く
冱えたる空は遠く
三四の
凧の影を転じて、
見遍す庭の
名残無く
冬枯れたれば、
浅露なる日の光の
眩きのみにて、
啼狂ひし
梢の
鵯の去りし後は、隔てる隣より
戞々と
羽子突く音して