突切つっき)” の例文
あれはうまい、と言いますと、電車を待って雨宿りをしていたのが、傘をざらりと開けて、あの四辻を饅頭屋へ突切つっきったんです。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
八幡下の田圃を突切つっきって、雑木林の西側をこみちに入った。立どまってややひさしく耳をました。人らしいものゝもない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そのわずか五丁もの道の間には、火葬場かそうばや大根畑や、墓やすぎの森を突切つっきらない事には、大変なまわり道になるので、私達は引越しの代を倹約けんやくするためにも
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
一望して原だよと澄ましていればそれまでの事で、おおせのごとくたいらにも見えるが、いざ時間に制限を切って、突切つっきって見ろと云われると、恐ろしく凸凹でこぼこができてくる。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
竹ヶ崎は此方こっちイずいと往って突当って左へきれて、構わず南西みなみにしへきれて這入ると宮がある、其の宮のまい新浄寺しんじょうじと云う寺がある、其処そこ突切つっきってくと信行寺しんぎょうじと云うお寺様アある
肉類や野菜のいちの立つ町を墓地の方へ行かずにモン・パルナッスの通りへと突切つっきった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あまりの事に、寂然しんとする、その人立の中を、どう替草履を引掛ひっかけたか覚えていません。夢中で、はすに木戸口へ突切つっきりました。お絹は、それでも、帯も襟もくずさない。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこに一月余りも滞在しているうちに九月になり掛けたので、保田ほたから向うへ突切つっきって、上総かずさの海岸を九十九里伝いに、銚子ちょうしまで来たが、そこから思い出したように東京へ帰った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
田植時たうえどきも近いので、の田も生温なまぬるい水満々とたたえ、短冊形たんざくがたの苗代は緑の嫩葉わかば勢揃せいぞろい美しく、一寸其上にころげて見たい様だ。どろ楽人がくじん蛙の歌が両耳にあふれる。甲州街道を北へ突切つっきって行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あれから旅籠町へ抜けて、東四十物町を突切つっきって、橋通りへかかって神通を飛越そうてえ可恐おそろしれ方だ。南無三宝なむさんぽう、こりゃ加州まで行くことかと息切がしてあおくなりましたね。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
外には白いしもを一度にくだいた日が、木枯こがらしにも吹きくられずに、おだやかな往来をおっとりと一面に照らしていた。敬太郎はその中を突切つっきる電車の上で、光をいて進むような感じがした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
熱海の街を突切つっきって、かわらのような石原から浪打際へ出ようとする、かたわら蠣殻かきがら屋根、崖の上の一軒家の、年老いた漁師であるが、真鶴崎まなづるがさきかつおの寄るのも、老眼で見えなくなったと
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
上の新道しんみちを行くのであって、この旧道を突切つっきれば、萩の株に狼のふんこそ見ゆれ、ものの一里半ばかり近いという、十年の昔といわず、七八年以前までは駕籠かご辿たどった路であろう。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「さては電車路を突切つっきったな。そのまま引返せばいものを、何の気で渡った知らん。」
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お源のそのあわただしさ、けて来た呼吸いきづかいと、早口の急込せきこみ真赤まっかになりながら、直ぐに台所から居間を突切つっきって、取次ぎに出る手廻しの、たすきを外すのがはだを脱ぐような身悶みもだえで
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
草のみちももどかしい。あぜともいわず、刈田と言わず、真直まっすぐ突切つっきって、さっと寄った。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鰻屋うなぎやの神田川——今にもその頃にも、まるで知己ちかづきはありませんが、あすこの前を向うへ抜けて、大通りを突切つっきろうとすると、あの黒い雲が、聖堂の森の方へとはしると思うと、頭の上にかぶさって
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「成程。線路を突切つっきって行く仕掛けなんです。」
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)