相成あいな)” の例文
金博士は、このごろアルコールに不自由をしている上に、金にも困っていると見え、さてこそ極限歎息きょくげんたんそく次第しだい相成あいなったらしい。
おもてむきは何處どこまでも田舍書生いなかじよせい厄介者やつかいものひこみて御世話おせわ相成あいなるといふこしらへでなくてはだい一に伯母御前おばごぜ御機嫌ごきげんむづかし
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「恐れながら、恐れながら拙者せっしゃとても、片時へんしも早く、もとの人間に成りまして、人間らしく、相成あいなりたう存じます。とうげを越えて戻ります。」
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「とにかく近頃の如く御馳走の食べ続けにては、さすがの小生も遠からぬうちに大兄の如く胃弱と相成あいなるは必定ひつじょう……」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「鎧兜太刀などは武士の表道具、まして御先祖伝来の大切な品々、お前さまの御自由には相成あいなりませぬ」
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
芝居は何日なんかあいだあるが、藩士たるものは決して立寄ることは相成あいならぬ、住吉すみよしやしろの石垣より以外に行くことならぬと云うその布令の文面は、はなはだ厳重なようにあるが
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
さて、小僧ますをとりて酒を入れ候に、酒はこともなく入り、つい正味しょうみ一斗と相成あいなり候。山男おおいわらいて二十五文をき、瓢箪をさげて立ちり候おもむき、材木町総代そうだいより御届おとど有之これあり候。
紫紺染について (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
学校は必要のものには無之これなく、職業のためむしろ欲のためとなると、学問といわんよりは、学校というものを卒業する事が必要に相成あいなるべく、いずれにしても平凡人のせつなさに候う。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
井生森又作という三十五歳に相成あいなりましてもいまだ身上みのうえさだまらず、怪しいなり柳川紬やながわつむぎあわせ一枚で下にはシャツを着て居りますが、羽織も黒といえばていいけれども、紋の所が黒くなって
「なんとも、お察しする。悪事をする子ほど可愛いとは、俗にもいうことば、さだめし、ご愁心であろう。しかし、もう今日と相成あいなっては、如何いかんとも、いたし難い。お諦めが肝要であろう」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
結局金博士の智慧をめそうとした奴の蟇口の中身が空虚から相成あいなって、思いもかけぬ深刻しんこくな負けに終るのが不動の慣例だった。
御遠慮があってはならぬ——が、お身に合いそうな着替きがえはなしじゃ。……これは、一つ、亭主が素裸すはだか相成あいなりましょう。それならばお心安い。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私の流儀にすれば金がなければ使わない、あっても無駄に使わない、多く使うも、少なく使うも、一切いっさい世間の人のお世話に相成あいならぬ、使いたくなければ使わぬ、使いたければ使う
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
何分にも捗々はか/″\しく参りませんで、それについて誠にどうも……アヽ熱い、お國さま先達せんだっては誠に御馳走様に相成あいなりまして有難う、まだお礼もろく/\申上げませんで、へえ、アヽ熱い、誠に熱い
そのために、そこら中は水だらけと相成あいなり、水は集り集って、租界そかい洪水こうずいのようにひたしてしまった、本当の話ですよ。
「いや、安心は相成あいならぬ。が、かた/″\の御心ごしんもじ、御如才おじょさいはないかに存ずる。やがて、此の湖上にも白い姿が映るであらう。——水も、も、さてけた。——武士さむらい。」
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
れから楽書らくがき一切いっさい相成らぬ、壁や障子に楽書を禁ずるは勿論もちろん、自分所有の行灯あんどうにも机にも一切の品物に楽書は相成あいならぬとうくらいの箇条で、すでに規則をめた以上はソレを実行しなくてはならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
残念ながら、咄々先生の言葉は、これ以上録音することが不可能の事態とは相成あいなった。なぜなれば、咄々先生の舌が、一抹いちまつの煙と化してしまったからである。
ぢやが、海苔のりじょう煎餅せんべいの袋にも、贈物おくりものは心すべきぢや。すぐに其は対手あいてに向ふ、当方の心持こころもちしるし相成あいなる。……将軍家へ無心むしんとあれば、都鳥一羽も、城一つも同じ道理ぢや。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
というわけで、今や醤買石は、執念しゅうねんの火の玉とし、喰うか喰われるかの公算五十パアセントの危険をおかしても一矢いっしをむくわで置くべきかと、あわれいじらしきことと相成あいなった。
「半之丞が失踪しっそういたして、今日で何ヶ年に相成あいなるかの」
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)