片輪かたわ)” の例文
よろこばるゝといへどもおや因果いんぐわむく片輪かたわむすめ見世物みせものの如くよろこばるゝのいひにあらねば、決して/\心配しんぱいすべきにあらす。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
人間の畸形きけいにも不具と出来過ぎとが確かにある。大男も片輪かたわのうちにかぞえるのは、いわゆる鎖国時代の平民の哀れな遠慮であろう。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「葉子さんという人は兄がいうとおりにすぐれた天賦てんぷを持った人のようにも実際思える。しかしあの人はどこか片輪かたわじゃないかい」
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
渋面じゅうめんをつくった呂宋兵衛るそんべえと、にがりきった菊池半助きくちはんすけとが、片輪かたわ死骸しがいになった味方みかたのなかに立ってぼんやりと朝の光を見ていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三河屋のために片輪かたわになつたのを、三河屋がお爲ごかしに女房にまで別れさせ、散々恩に着せられて、離室へ犬のやうに飼はれて居る男だ。
生れながらの片輪かたわであったり、精神の欠陥が在ったりするのに対しても、それぞれに相当の原因を説明する夢が、その胎生の時代に在った筈である。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私は職業上己のためとか人のためとか云う言葉から出立してその先へ進むはずのところをツイわき道へそれて職業上の片輪かたわという事を御話しし出したから
道楽と職業 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大八の片輪かたわ田の中に踏込んだようにじっとして、くよ/\して居るよりは外をあるいて見たら又どんな女にめぐあうかもしれぬ、目印の柳の下で平常ふだん魚はれぬ代り
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そのことをきいて憤慨したのが、尾張の國愛知郡、片輪かたわさとの一女流力者——ちよつとここではさんでおくのは、前の狐女末裔は大女、この正義の女史は小女です。
春宵戯語 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
老人「さあ、それもどうですかね。一体野菜の善悪は片輪かたわのきめることになっているのですが、……」
不思議な島 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
人間の子供は豚より安いんだ。一弗か二弗で買った奴は、食うものもろくにやらずに使い倒して、片輪かたわになると捨ててしまう。その無恥な売買の市場があの貧民窟だ
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
果合いなどをして腕を落さ切られたり、あるいは顔を切られた者で、他のチベットの医師にかかると必ず片輪かたわになって、一生不自由な思いをして暮さなければならん者が
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
二十年来この窟に隠れ棲んで、殆ど人間との交際をっていた母子おやこ二人は、さながら車の両輪の如き関係であった。今やその母をうしなって、彼は殆ど片輪かたわになってしまった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それから、よし、腕づくでも取る、戸山が原へ来い、片輪かたわにしてやる、といふことになつたのである。三木も、蒼ざめて承知した。元旦、正午を約して、ゆうべはわかれた。
火の鳥 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
そんな楽しみを楽しみとしえないような片輪かたわな人間ではありませんが、こんな苦しい生活をつづけているのは、むずかしい仕事の性質にもよることのほかに、これを機会に
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
片輪かたわ、いたずら、悪気のない物、争い物をやらせても、僧侶物から遊興物、婿取り物から夫婦物、盗人物から悪人物、何から何までやらせても、いつも名人でござりますよ。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「未練というわけじゃあねえが、おれもあの女ゆえにこの腕を一本なくして、生れもつかねえ片輪かたわにされちまったんだ、身から出たさびだと言えばそれまでだが、どうもこのままじゃあ済まされねえ」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「少弐の孫は片輪かたわだそうだ、惜しいものだ、かわいそうに」
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「生れ付きの片輪かたわこうじて、近ごろは身動きも自由でなく、離屋にこもったきりでございます、もう十五になりますが」
メチャメチャにふみつぶされたり、片輪かたわにされたかわいそうな人が、何人あるか知れやしません。まったく弱いものは生きていられない世の中ですね
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手術を受けた時はチットもそんな気がしなかったが、タッタ今義足という言葉を聞くと同時に、スッカリ片輪かたわらしい、情ない気もちになってしまった。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
めくらなどは勿論立派りっぱなものです。が、最も理想的なのはこの上もない片輪かたわですね。目の見えない、耳の聞えない、鼻のかない、手足のない、歯や舌のない片輪ですね。
不思議な島 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「あの教師あ、うちの旦那の名を知らないのかね」と飯焚めしたきが云う。「知らねえ事があるもんか、この界隈かいわいで金田さんの御屋敷を知らなけりゃ眼も耳もねえ片輪かたわだあな」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私をかばう一心から、飛び込んで来たのでございます。可哀そうなことをいたしました。でも妹はああいう片輪かたわ、なまじ活きておりますより、死んだ方がよかったかもしれません。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「薄汚い野郎だ。君は一たい、さちよをどうしようといふのかね。ただ、腕づくでも取る、戸山が原へ来い、片輪かたわにしてやる、では、僕は君の相手になつてあげることができない。」
火の鳥 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
段々眼がかすんで来た。笠井の娘……笠井……笠井だな馬を片輪かたわにしたのは。そう考えても笠井は彼れに全く関係のない人間のようだった。その名は彼れの感情を少しも動かす力にはならなかった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しかしクラデル氏は、その精神に於ては、外貌とは全く反対な人物で、通例一般の片輪かたわ根性や、北欧の小国人一流の狡猾なところはミジンもなく、如何いかにも弱い
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
というのはほかでもないが開化の潮流が進めば進むほど、また職業の性質が分れれば分れるほど、我々は片輪かたわな人間になってしまうという妙な現象が起るのであります。
道楽と職業 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たとえ、まこと父御ててごが、たれであろうと、和子様だけは、まちがいなく、一個のではおわさぬか。手も脚も、片輪かたわじゃおざらぬ。こころを太ぶとと、おもちなされい。
「薄汚い野郎だ。君は一たい、さちよをどうしようというのかね。ただ、腕ずくでも取る、戸山が原へ来い、片輪かたわにしてやる、では、僕は君の相手になってあげることができない。」
火の鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
(もっとも大勢おおぜいの職工たちはこの××のふるえたのを物理的に解釈したのに違いなかった。)海戦もしない△△の急に片輪かたわになってしまう、——それは実際××にはほとんど信じられないくらいだった。
三つの窓 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
美味うまそうなものを一パイ詰めた籠を出して、雑木林の中の空地に敷き並べると、部落に残っている片輪かたわ連中を五六人呼び集めて、奇妙キテレツな酒宴さかもりを初めた。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
世の中には色盲しきもうというのがあって、当人は完全な視力を具えているつもりでも、医者から云わせると片輪かたわだそうだが、この御三は声盲せいもうなのだろう。声盲だって片輪に違いない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すぐに「片輪かたわ」という名前を附けて軽蔑したり、気の毒がったり、特別扱いにしたりする事にきめている。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼女には天下の人がことごとく持っている二つの眼を失って、ほとんどひとから片輪かたわ扱いにされるよりも、いったんちぎった人の心を確実に手に握れない方がはるかに苦痛なのであった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
口も動かぬ片輪かたわの木魚が。見たり聞いたりして来た話が。腹はからッポ公平無私だよ。タタキ出します阿呆陀羅経あほだらきょうだよ。地獄めぐりのチョンガレ文句が。ドンと一段、深みへ落ちます。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
第一毛をもって装飾されべきはずの顔がつるつるしてまるで薬缶やかんだ。その猫にもだいぶったがこんな片輪かたわには一度も出会でくわした事がない。のみならず顔の真中があまりに突起している。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
片輪かたわ出来損できそこないの芸術であります。
教育と文芸 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)