ゆか)” の例文
⦅五月、斯螽ししゆう股を鳴らし。六月、莎鶏さけい羽を振ふ。七月、野に在り。八月、宇に在り。九月、戸に在り。十月、蟋蟀わがゆかの下に入る⦆
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
直ぐ目についたのは、ゆかの上に投出してあるトランクと手提鞄である。それにはいずれもT・Cと姓名の頭文字が記してあった。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
看護婦や宿直の若い医員だちを呼び集めて、陽気に騒いでいるのだったが、葉子は長いそでゆかまで垂らして、けるような声で謳っていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それらをかまどの前に置いて水をふくんで吹きかけると、木人は木馬を牽き、鋤鍬をもってゆかの前の狭い地面を耕し始めた。
ゆかは低いけれども、かいてあるにはあった。其替り、天井は無上むしょうに高くて、而もかやのそそけた屋根は、破風はふの脇から、むき出しに、空の星が見えた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
またゆかの上に畳を敷きつめることも、勿論神武天皇以来の風ではない。たたみは文字通り畳むもの、すなわち今日のゴザまたはザブトンに該当する。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
くもあみをむすびて九二諸仏を繋ぎ、燕子つばくらくそ九三護摩ごまゆかをうづみ、九四方丈はうぢやう九五廊房らうばうすべて物すざましく荒れはてぬ。
姫の指はゆかをさしてゐました。そこには二三寸も高く積つたほこりの上に、大きな支那靴しなぐつの跡がポタリ/\とついて、ラマ仏像の横の方へ走つてゐました。
ラマ塔の秘密 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
赤い首巻きを締めるように、肥満した男の太い呼吸がばったりやむと、人口的な都会の性格がおびただしくゆかにふれた。
女百貨店 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
室内の区劃の上に現わるる二元性としては、まず天井てんじょうゆかとの対立が両者の材料上の相違によって強調される。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
みどりとばり、きらめく星 白妙しらたへゆか、かがやく雪 おほいなるかな、美くしの自然 が為め神は、備へましけむ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
従って生活は質素であり多忙である。懶惰らんだいとまはない。ひまならば器には遠い。あのゆかに休む飾物は概して弱いではないか、もろいではないか。働き手ではないからである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
孫の鸚鵡は目をみはって何か考えているようであったが、暫くして女が髪を結うためにくつを脱いでゆかにあがると、鸚鵡はふいにおりてその履の一つをくわえて飛んで往った。
阿宝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
屋根から伝つて雨樋に落ち、雨樋から庭へ下る流れの喧しい音、庭の花壇も水に浸つてしまひ、門の下からゆか下まで一つらに流れとなつて、地皮を洗つて何処へか運んで行く。
五月雨 (新字旧仮名) / 吉江喬松(著)
おかみさんは、商売物の水飴をはしに巻いてはしきりにすすめる。「よしえボコ」は絶えず口を動かしていたが、終にゆかの上から入口の土間に小用して、サッサと寝床へ入ってしまった。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
この頃の大水に浸つた家々のゆかは、まだ乾かない。夜は焼鳥とおでんやの出る角端かどつぱ明店あきみせの前へ棚を据ゑて、葉のしなびた朝顔鉢が七つばかり並べてあつた。うりものと仮名で貼札してある。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
守備隊長はすぐ仏像の台坐にのり、その光つた石を押すと、ぎつと音がして、仏像は前の方へ動き出して、あとには人のはいれるやうな穴が一つ、ゆかにあきました。
ラマ塔の秘密 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
一二八公叔座こうしゆくざ病のゆかにふしたるに、魏王みづからまうでて手をとりつも告ぐるは、一二九むべからずのことあらば、誰をして一三〇社稷くにを守らしめんや。
ひる寝のなかで、ゆかの下からやつてきた蟋蟀の、ながい脚に、踏んづけられた夢をみて、さめる。
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
伴に立つて来た家人の一人が、大きな木の又枝またぶりをへし折つて、之に旅用意の巻帛まきぎぬを幾垂れか結び下げて持つて来た。其をゆかにつきさして、即座の竪帷たつばり—几帳—は調つた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
するとゆかをける足音と、しばらくしてもの凄い音響が電流をつたって彼女に勇気をあたえた。
女百貨店 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
一頭の大きい白猿が四足しそくゆかにくくられていて、一行を見るや慌て騒いで、しきりに身をもがいても動くことが出来ず、いたずらに電光のような眼を輝かすばかりであった。
星のとばり、雪のゆか くしくおほいなる準備そなへかな だ頽廃の人の心 悲しくも住むに堪へざるを
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ゆかに飾られ室をいろどるためのものではなく、台所に置かれ居間に散らばる諸道具である。あるいは皿、あるいは盆、あるいは箪笥たんす、あるいは衣類、それも多くは家内うちづかいのもの。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
かれは酒が大好きで、酔うと力が満ちて来ると見えて、私たちに言いつけて綵糸いろいとで自分のからだをゆかに縛り付けさせます。そうして、一つねあがると、糸は切れてしまうのです。
ともに立って来た家人けにんの一人が、大きな木の叉枝またぶりをへし折って来た。そうして、旅用意の巻帛まきぎぬを、幾垂れか、其場で之に結び下げた。其をゆかにつきさして、即座の竪帷たつばり几帳きちょう—は調った。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
なほおこたらず供養きようやうす。露いかばかりそでにふかかりけん。日はりしほどに、山深き夜のさま三二ただならね、石のゆか木の葉のふすまいと寒く、しんほねえて、三三物とはなしにすざまじきここちせらる。