爪牙そうが)” の例文
だが、いかに処罰を恐れたからといって、あの血に飢えた獣人が、これ限りその爪牙そうがを隠して一生を終ることができるであろうか。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
爪牙そうがの鈍った狼のたゆたうのを、大きい愛の力で励まして、エルラはその幻の洞窟どうくつたる階下の室に連れてこうとすると、幕が下りる。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
源氏といい、平氏といい、今日までは、公卿くげの下風について、公卿の爪牙そうがにつかわれていたに過ぎないが、時代はだんだん変ってきたぞ。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
虎のような爪牙そうがもなく、鳥の翼、魚の保護色、虫の毒、貝の殻なぞいう天然の護身、攻撃の道具を一つも自身に備付そなえつけなかった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
英国大使館が到頭爪牙そうがを現してきたのです。英国は太子殿下の日本御滞在を少しも喜んではいなかったのです。到頭常套じょうとうかん手段を用いて殿下を
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
反共産派の工人たちは、この敗北しかけた共産系の団流を見てとると、再び爪牙そうがを現わして彼らの背後から飛びかかった。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
期におよびて還さざらんか、彼はたちま爪牙そうがあらはし、陰に告訴の意を示してこれをおびやかし、散々に不当の利をむさぼりて、その肉尽き、骨枯るるの後、く無き慾は
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
魔物来たりて余を掠めんとせば、余は全力を飛逃に尽くし、その爪牙そうがを逃るることをつとむべし。
妖怪報告 (新字新仮名) / 井上円了(著)
幕府の爪牙そうがとなって働く放漫有志の鎮圧を専門としているが、もともとかれらは生え抜きの幕臣でもなんでもないから、その御すべからざるところに価値ねうちがあったのだ
テナルディエ夫婦の爪牙そうがからコゼットを救い出した日の夕方、ジャン・ヴァルジャンは再びパリーにはいった。夕暮れの頃コゼットとともにモンソーの市門からはいった。
されば DSでうす が大慈大悲の泉源たるとうらうえにて、「じゃぼ」は一切諸悪の根本なれば、いやしくも天主の御教みおしえを奉ずるものは、かりそめにもその爪牙そうがに近づくべからず。
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
太祖おおいに喜び、これより後しばしば諸将をひきいて出征せしむるに、毎次功ありて、威名おおいふるう。王既に兵を知りたたかいる。加うるに道衍どうえんありて、機密に参し、張玉ちょうぎょく朱能しゅのう丘福きゅうふくありて爪牙そうがる。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
銀座がネオンとジャズでき返るような熱鬧ねっとう躁狂そうきょうちまたと化した時分には、彼の手も次第にカフエにまで延び、目星めぼしい女給で、その爪牙そうがにかかったものも少なくなかったが、学生時代には
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
爪牙そうがの臣を敵の餌食にする積りだろうと云って歎じたと云う。
小田原陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
戦って自分の爪牙そうがためすことを待ち遠しがっていた。
支那をしてソビエット政府の光栄ある治下に置き、彼等虎狼ころう爪牙そうがから免れしむることは一に新興×××××諸君の奮起力にかかっている。
人間レコード (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いまさら徳川のろくんで、その爪牙そうがとなるわけにはいかぬ、新撰隊そのものが、そういうふうに変化した以上は、我々の隊に留まるべき大義名分は消滅したのだから
そして、武松の顔の辺で、ゴロ、とのどを鳴らし、前肢ぜんしを突っ張ったせつな、今にも何かの行動に出そうな爪牙そうがの姿勢をピクと見せた。けれど、虎はそれにも出なかった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
熱狂の酷烈さを公布し減退させること、圭角けいかくを削り爪牙そうがを切ること、勝利を微温的たらしむること、正義に衣をせること、巨人たる民衆にすみやかに寝間着をきせ床につかせること
こうして、音無の怪物は、死肉には爪牙そうがを触るることなく、そのままずっと進んで行きました。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「前門には虎、後門には狼。両賊はちんの身を賭物かけものとして、爪牙そうがぎあっている。出ずるも修羅、止まるも地獄、朕はそもそも、いずこに身を置いていいのか」と、慟哭どうこくされた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
巣にかかったはえの飛ぶのを見て喜ぶ蜘蛛くものような目つきで、また捕えたねずみを走らして喜ぶねこのような目つきで、彼は獲物をうかがっていた。獲物をつかむ爪牙そうがは奇怪な快感を持っている。
いかに飢えたりとも、天が特に爪牙そうがを授けて、生けるものの血肉を思いのままに裂けよと申し含めてある動物に向って、棺肉の冷えたのを食えよというのは、重大なる侮辱である。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
自分たち族党の地位栄花を守らせるために飼っていた爪牙そうがの武士が、ちょうをえて、直接、上皇と結ぶようなことになっては、藤原一門の運命を危うするものという猜疑さいぎはすぐ起こる。
ある言葉は爪牙そうがに似、ある言葉は濁り血走った目に似、またある句はかにはさみのように動いてるようでもある。すべてそれらは、混乱のうちに形造られてる事物の嫌忌すべき活力に生きているのである。
呂布りょふは、呂布らしい爪牙そうがをあらわした。猛獣はついに飼主の手をんだのである。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
調べあつめて来たところを、順を追って、一方で語り、一方で書きあげている間に、市川義平太は、そのお袖を、死ぬまで、魔の爪牙そうがから離さなかった化物刑部の素姓しらべと、かれら一味の
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
爪牙そうが、むなしく
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)