炯眼けいがん)” の例文
殺された女は私の妹でしかも唖であることを、どうしてあなたは発見なさいましたか知りませんが、あなたのその御炯眼けいがんを以てしても
呪われの家 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
何事かこの間に大きな方針の推移があったものと、恵瓊の炯眼けいがんはそれを見のがしていなかったが、彼もあくまで平調な口吻くちぶり
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしの炯眼けいがんは、残念ながら自分の鼻の先までしか届かず、また折角のわたしの密計も、誰ひとりだましおおせることはできなかったらしい。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
全軍の指揮を一任せられたフォッシュ将軍の英断と炯眼けいがんによって独軍攻勢の側面を衝き、遂に攻守処を異にして連合軍勝利の基を開いたのである。
戦争史大観 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
戸浪三四郎が「一宮かおるの屍体に異常はないか」と聞いたのは炯眼けいがんだった。屍体のまとっていた衣服の左ポケットに、おかしな小布こぬのが入っていた。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と心得ているお角——いまだ知られざる名物を発見しようとする熱心と、炯眼けいがんとは、先天的といっていいかも知れない。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
中村芳夫は、高山名探偵の、こうした炯眼けいがんと推理力に心から嘆服たんぷくしてしまった。涙と共に床の上にひれ伏した。
夫人探索 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今は教育界においても、社会においても、従来の教育に不満を感じている炯眼けいがん達識の人々が沢山にある時です。
文化学院の設立について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
で、たいていな妓は、喜楽の女将の言うことに逆らわなかった。けれども、そのおりのお鯉は、とてもそうしたおどしでは駄目だと炯眼けいがんな女将は見てとった。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
後にはその名さえ炯眼けいがんなアカデミーに黙殺されてわたしのところに残っている人々の、未完成の下図もある。
「ウーム。御炯眼けいがん。先ず、そこから当り始めるのが順序でげす。ヤツガレもチクと同行いたしましょう」
何んにせよ此本は半世紀前の日本を先生の炯眼けいがんで観察せられたものであるから、誰れが読んでも誠に面白いものであるし、又歴史的にも非常に貴重なものである。
何んにせよ此本は半世紀前の日本を先生の炯眼けいがんで観察せられたものであるから、誰れが読んでも誠に面白いものであるし、又歴史的にも非常に貴重なものである。
彼はきわめて炯眼けいがんだったので、クリストフの訪問には一つの利害関係の目的があることを予見してはいたが、それは自分の力にささげられた敬意だという一事だけで
小悪漢ピオニェール小僧の炯眼けいがんは、二人の日本人の女の無意識の断層にねらいをつけて図星だった。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
……芸術家を、本当の芸術家を、芸術を渡世とする人でなく、宿命的な呪われた芸術家を、あなたはちょっとした炯眼けいがんでもって、大勢の中からでも見抜くことができる。
僕くらいの炯眼けいがんの詩人になると、それを見破ることができる。家の者が、夏をよろこび海へ行こうか、山へ行こうかなど、はしゃいで言っているのを見ると、ふびんに思う。
ア、秋 (新字新仮名) / 太宰治(著)
さて僕はといふと、この峻烈かつ炯眼けいがんな防疫吏の手で、全裸にされた。頭髪、胸毛、恥毛など一切の毛髪も、薬物によつて脱去され、全身消毒ののち、透明な衣服を与へられた。
わが心の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
私はその炯眼けいがんにも舌を捲いたが、同時にこれだけの力量ある探偵の調査ならば、充分に信頼が持てるであろうという安心感をも、しみじみと感ぜずにはいられなかったのであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
もとより炯眼けいがんな読者はすでに、そもそもの最初から私がそんなことを言いそうだったと、早くも見抜いてしまって、ただ、——なんのために、むやみに役にも立たない文句を並べて
蝶子はむくむく女めいて、顔立ちも小ぢんまり整い、材木屋はさすがに炯眼けいがんだった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
事実を告白してしまったのでもあろうが、………それにしても、身内の者はかえって思い及ばなかったけれども、三四箇月のお腹と云えば炯眼けいがんな人には随分感づかれる恐れがあるのに
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼の友であり彼をいつくしみ、普通のとおり彼よりいっそう炯眼けいがんである一人の作家が、彼のつつましい揺籃ようらんをのぞきこんで、なんじは十二、三人の昵懇じっこん者の範囲外にふみ出すことはなかろうと予言したときから
彼にあっては、その作品は幼時の溌剌はつらつたる官能を老いてますます増強した炯眼けいがん依憑いひょうさせ、そこから推移発展させて、始めて収めえたる数十篇である。その一つ一つが珠玉をつらねて編み成されている。
「御炯眼けいがんのほど恐れいった。しかし、あれまでにしてなぜ御成敗なさらぬのか、この左馬頭には少しに落ちかねまするが」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
炯眼けいがんなる金先生足下そっか。まず何よりも、先生の御予言ごよげんが遂に適中てきちゅうしたことを御報告し、つ驚嘆するものです。
炯眼けいがんな北原は早くも、このバツの合わない二人の呼吸を見て取らないわけにはゆかないと共に、いよいよ解しきれないものが、頭の中を躍起とさせるようです。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いくら何でも、チイット炯眼けいがん過ぎやせんか……それは……。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
側近からデーニッツ提督を後継に選んだ炯眼けいがんと熱意とを指摘し、そして「ドイツ人は故人の意志を奉じて邁進精進することに於いて、世界に稀なる民族である」
海野十三敗戦日記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
だいたい、胆吹王国に身を寄せる人種は右のような人別にんべつになりますけれども、右の人別のいずれへも入らない存在を、炯眼けいがんなる青嵐居士が早くも見て取りました。
炯眼けいがんだな。……だが、その炯眼にしては、まるで無用な、時候見舞だの、移転ひっこしらせだの、質屋のものだの、つまらん物まで、ごったに交じっているじゃないか」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「君の炯眼けいがんを以てしてかい」
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
(あっ、あそこだわ!)炯眼けいがんなる彼女の小さな眼にえいじた一つの異変! それは高い天井の隅にある空気抜きの網格子あみごうしが、ほんのちょっと曲っていたことである。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それでこの数日間、得意の炯眼けいがんを光らして見ると、つきとめたのが本所の相生町の老女の家です。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「いやその世辞が油断ならぬ。よも、こちらの腹を見やぶられはしまいな。都ではいくたびも会っておるが、ぐんをぬいて如才じょさいのない、そして炯眼けいがんな佐々木道誉のことだ」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
炯眼けいがんな探偵は、さっと見廻しただけで、宝でも何でも、欲しいものを探しあてるのだけれど……」
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
同じ炯眼けいがんの士があって、単身阿波へ入り込んだという噂——またそれが、甲賀世阿弥ということも、ほのかに聞いていたので、二人は今なおその名が深く脳裏のうりにあった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日本橋の某百貨店のエレベーター坑道の底部ていぶに開いているものは、エレベーター故障事件に発して、炯眼けいがんなる私立探偵帆村荘六ほむらそうろくに感付かれたが、軍部は逸早いちはやくそれをると
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ご炯眼けいがんのほど驚き入りました。下手人はこの笛の持主、郁次郎という者に相違ござるまい」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さはいえ孔明は曹真がさして炯眼けいがんならざるを察して、おそらくまだそこまで兵をまわしておるまい。……のう張郃。ご辺とわしとは、一方急に進んで、そこを衝くのじゃよ。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なるほど、そうなっているネ」と私はいよいよ友人の炯眼けいがんおどろかされた。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
さすが炯眼けいがんな羅門も、彼の巧みな変装にはいッぱい食って、思わず、恥じたいろをした。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いわば、今宵こよい良人おっと射殺事件は、あたかも竹花中尉の敵打かたきうちをしたようなものだった。この隠れた事実を、紅子が知ったのは、く最近のことで、それを教えたのは、炯眼けいがんきまわる大蘆原軍医だった。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
自分たち若人ばらの秘かなくわだては、父もうすうすは感づいている筈と、宗時も警戒はしていた。しかし、それは日頃の事である。今夜の事に限っては、いくら炯眼けいがんな父でも、知るわけはない。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこを老人の炯眼けいがんに睨まれたのかもしれない。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
勘のいい万吉も、炯眼けいがんなる一八郎も、さらに見当がつかなかった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あんないい加減なものじゃない。もっと炯眼けいがんな人物批評家だよ」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「うーむ……。さすがは炯眼けいがん、恐れ入った。実はその通りだ」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
曹操の炯眼けいがんでは、「彼の西のとりでこそ手薄だな」と見た。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「むごいとでも思うのか。いや、あのみかどは、もうそれも感づいておる。だからいいおきたいことも今ならいうに相違ない。……といっても、あなたからは触れぬがいいぞ。みかどはすごく炯眼けいがんだ、怪しまれる」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)