わざわ)” の例文
わざわいが、どこにひそんでいるかわからぬ、といったような感じが、そんなことから、いつとはなしに、彼の胸に芽生えはじめていたのである。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そしてそのなきがらをめたおはか将軍塚しょうぐんづかといって、千何年なんねんというながあいだ京都きょうと鎮守ちんじゅ神様かみさまのようにあがめられて、なになかわざわいのこるときには
田村将軍 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「支那游記」一巻は畢竟ひっきょう天の僕に恵んだ(或は僕にわざわいした)Journalist 的才能の産物である。
「支那游記」自序 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わざわいなことには、細君もまた彼の皮肉な眼からのがれなかった。彼女は親切で、活動的で、自分を役だたせたいと願い、いつも慈善事業にたずさわっていた。
人にわざわいの起る前にはその音を聞いていると、ひとりでにわかることがあるのでございます……それでございますから、わたくしは、気にかかる物の音色は
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
左側に並んでいる私娼宿の壁へ、ピッタリと背中を平めかしてつけて、投げ落とされる丸太や礫や、火のついている棒のわざわいから、巧みにのがれているのであった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この日鼠を見た者にはわざわいがあるとって、野外に出ることを慎しみ、もとはまる一日田畠を鼠に解放するのみか、鼠という語を口にさえしなかったということである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
琅邪ろうや代酔編』二に拠れば、董勛の元日を鶏、二日を猪などとなす説は、漢の東方朔とうぼうさくの『占年書』に基づいたので、その日晴れればその物育ち、くもればわざわいありとした。
今から七百六十年も前の都は、たとい王城の地といっても、今の人たちの想像以上に寂しいものであったらしい。ことにこの戊辰つちのえたつ久安きゅうあん四年には、禁裏に火のわざわいがあった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ところが夜というやつは、とかくわざわいの起りがちなものでね。まあ悪いことは言わないから、夜ぐうぐうてないで、一生けんめい大きな眼をあけて、見張りをするんですね。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
もし御隠し遊ばすと王様の御身おみの上やこの国の行く末に容易ならぬわざわいが起りまするぞ
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
参木は昨夜のお柳の見幕を思い出すと、お杉のわざわいがいよいよ自分に原因していることを感じて暗くなった。しかし、それにしても、お杉が自分の家から出て行こうとしない所が不思議であった。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
むなしくわざわいの暴威と敵兵の濶歩かっぽにおののくだけであった。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人生を生きる以上人生に深入りしないものはわざわいである。
小さき者へ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それが今夜こんやあなたにかぎって、殺生石せっしょうせきのそばにかしながら、なんにもわざわいのかからないのはふしぎです。これはきっとほとけさまのみちふかしんじていらっしゃる功徳くどくちがいありません。
殺生石 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
飢人地上に倒れし時、主上御宸襟を悩ませられ、ちん不徳あらば朕一人を罪せよ、黎民れいみん何んのとがあるべき、しかるに天このわざわいを下すと、ことごとく嘆きおぼし召し、朝餉あさがれい供御くごを止めさせらる。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
南の島々の父神は日輪にちりんであるが、その数ある所生しょせいの中に、生まれそこないのふさわぬ子があって、わざわいを人の世に及ぼす故に、小舟に載せて、これを大海に流すという点が、わが神代史の蛭子説話と
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そののちたびの人が殺生石せっしょうせきのそばをとおっても、もうわざわいはおこらなかったそうです。
殺生石 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
今伝わっているうたいの辞句も、表現がいかにも素樸そぼくであって、室町期の気分が感じられるほかに、一方には寛永の頃、諸国に疫癘えきれいわざわいがあり、鹿島の神輿みこしを渡してそのうれいを除かんことをいのった際に
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
きっとわざわいをのがれることができますといいました。
殺生石 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)