瀑布ばくふ)” の例文
全体として言えば、彼は瘴癘しょうれいの気よりも泡沫ほうまつを愛し、下水よりも急流を愛し、モンフォーコンの湖水よりもナイヤガラ瀑布ばくふを愛した。
その男は仕合しあわせにも大した怪我けがもせず、瀑布ばくふを下ることが出来たけれど、その一刹那せつなに、頭髪がすっかり白くなってしまったよしである。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
或は奔湍いわおを噛む激流と化して嵯峨たる奇岩怪石のひまを迸り、或は幾丈の瀑布ばくふげんじて煙霧を吐きながら絶壁を落ちて行きます。
金色の死 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
第二に藤本鉄石ふぢもとてつせきの樹木は錆ナイフのやうに殺気立つてゐる。第三に浦上玉堂うらがみぎよくだう瀑布ばくふ琉球泡盛りうきうあわもりのやうに煮え返つてゐる。
僻見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
なんじに筧の水の幽韻ゆういんはない。雪氷をかした山川の清冽せいれつは無い。瀑布ばくふ咆哮ほうこうは無い。大河の溶々ようようは無い。大海の汪洋おうようは無い。儞は謙遜な農家の友である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
河川があり瀑布ばくふがあり、火山があり温泉があり、海岸線の屈曲は非常に多く、白沙青松はくしゃせいしょうのところもあれば断崖だんがい絶壁のところもあり、黒潮の北上、寒波の南下
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
其処はアピア市の南方三マイル、休火山ヴァエアの山腹で、五つの渓流と三つの瀑布ばくふと、その他幾つかの峡谷断崖を含む・六百フィートから千三百呎に亘る高さの台地である。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
いかにも洞の中は、ただこれ一条の大瀑布ばくふあって地の下にみなぎるがごとき、すさまじい音が聞えるのである。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼は雷電のごとくに馳駆し、風雨のごとくに敵を吹きまくり、あるいは瀑布ばくふのごとくはげしく衝撃するかと思えば、また霊鷲のように孤独に深山にかくれるのである。
俗な仕掛花火が始って、ナイヤガラ瀑布ばくふは数十間の火の崖となって川中へ一せいに火粉を流しています。その前の小舟の上に黒い影で花火師の跳ねているのが見えます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いつかある大新聞社の工場を見学に行ってあの高速度輪転機の前面を瀑布ばくふのごとく流れ落ちる新聞紙の帯が、截断せつだんされ折り畳まれ積み上げられて行く光景を見ていたとき
ジャーナリズム雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
困難のじつに水量と反比例をなしきたすすむこと一里にして両岸の岩壁屏風びやうぶごとく、河はげきして瀑布ばくふとなり、其下そのしたくぼみて深淵しんえんをなす、衆佇立相盻あひかへりみて愕然がくぜん一歩もすすむを得ず
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
四方を見上げても白銀一色の世界、梢も見定められぬその中に轟々と瀑布ばくふが地を揺がして鳴っていた。文覚は衣を捨てると、雪を踏み氷を割って滝壺に下り、首まで体を沈めた。
急峻きゅうしゅんで、大樹たいじゅ岩層がんそうが、天工てんこうをきわめているから、岳中がくちゅう自然しぜん瀑布ばくふ渓流けいりゅうがおおい。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はるかかなたに、とうとうと瀑布ばくふのおどり下る音を聞いた。——神の庭への滝だった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
それからまた内地に引返し、こんどはザンベジ河をくだつて、彼がヴィクトリア瀑布ばくふと名づけた大瀑布をすぎ、なほ河ぞひを進んで、千八百五十六年、東海岸のキリマネに達しました。
アフリカのスタンレー (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
テルニ瀑布ばくふとか、ナポリ湾は描かずにしまった。
日光三大瀑布ばくふの一なる、霧降きりふりの滝です。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あるいは泥灰岩が流れ出し、瀑布ばくふのような勢いで奔騰して、ごく大きな押さえのはりをもガラスのように砕く。
渓流が流れて来て断崖だんがいの近くまで来ると、一度渦巻うずまきをまき、さて、それから瀑布ばくふとなって落下する。悟浄よ。お前は今その渦巻の一歩手前で、ためらっているのだな。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
人工瀑布ばくふに水を上げる為のモーターポンプが、やかましく轟き渡っている中で、ピストルを打ったとて、誰も気づきはしないだろうと思うと、流石に薄気味悪くなって来た。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かたはらに直下数丈の瀑布ばくふありてはばすこぶひろし其地のいうにして其景のなる、真に好仙境こうせんきようと謂つべし、ちなみに云ふ此文珠岩はみな花崗岩みがけいわよりりて、雨水のくは水蝕すゐいつしたるなり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
わたしは梅道人ばいだうじん墨竹ぼくちくを見、黄大癡くわうたいち山水さんすゐを見、王叔明わうしゆくめい瀑布ばくふを見た。
支那の画 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
利根とね支流しりうたるの小屋河にのぞみ、河をくだる事二町にし玄道、大龍、小龍の三大瀑布ばくふありてじつに壮観をきはむ、衆相かへりみて曰く、這回の探検たんけんたる此等の如き険所けんしよ数多を経過けいくわせざるべからざるかと
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)