浅草寺せんそうじ)” の例文
旧字:淺草寺
思召おぼしめしでございますならば、いっそ、浅草寺せんそうじの観世音菩薩のように、都のまん中へお寺をおうつしになっては如何いかがでございますか……
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そんなことに時を移しているうちに、浅草寺せんそうじのゆう七つの鐘が水にひびいて、将軍お立ちの時刻となったので、近習頭から供揃えを触れ出された。
鐘ヶ淵 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのたびたびわたくしは河を隔てて浅草寺せんそうじの塔尖を望み上流の空はるかに筑波の山影を眺める時、今なお詩興のおのずから胸中に満ち来るを禁じ得ない。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
近年、浅草寺せんそうじの前に、桜の並木を移植した奇特家があって、まだ若木ではあるが、ことしはだいぶつぼみを持ったという。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それじゃ、ちょうど、浅草寺せんそうじの昼の鐘が鳴ったとき、お前たちは何処に居た。出合茶屋へ入ったのは、二人別々、それも昼は過ぎていたというじゃないか」
浅草寺せんそうじの十二時の鐘の音を聞いたのはもう半時はんとき前の事、春の夜はけて甘くなやましく睡っていた。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、浅草寺せんそうじの月々のお茶湯日を、やがて満願に近く、三年の間一度も欠かさない姪がいった。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金竜山きんりゅうざん浅草寺せんそうじ名代の黄粉きなこ餅、伝法院大えのき下の桔梗屋安兵衛ききょうややすべえてんだが、いまじゃア所変えして大繁昌はんじょうだ。馬道三丁目入口の角で、錦袋円きんたいえんと廿軒茶屋の間だなあ。おぼえときねえ
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
もちろん、もうあたりは深夜のような静けさなので、ところへ、やがてのことにいんいんと、風もない初春の夜の川瀬に流れ伝わってきたものは、金竜山きんりゅうざん浅草寺せんそうじの四ツの鐘です。
蓑市で最も有名なのは江戸の浅草あさくさであった。『東名物鹿子あずまめいぶつかのこ』に「弥生やよいの中の八日、近郷より蓑を持ち寄りて浅草寺せんそうじの門前にあきなふ。是を浅草のみのいちといふ。蓑市や桜曇さくらぐもりの染手本そめでほん
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
午前の十時ころ、——仲町の通りは、浅草寺せんそうじ参詣さんけいする人で、かなりにぎわっていた。
班女はんじょといい、業平なりひらという、武蔵野むさしのの昔は知らず、遠くは多くの江戸浄瑠璃じょうるり作者、近くは河竹黙阿弥もくあみおうが、浅草寺せんそうじの鐘の音とともに、その殺し場のシュチンムングを、最も力強く表わすために
大川の水 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
浅草寺せんそうじの明け六つの鐘が、こうこうと鳴り渡っている頃であった。
蘭学事始 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
大誦たいしょうは訳官になって深見氏を称した。深見は渤海ぼっかいである。高氏は渤海よりでたからこの氏を称したのである。天漪は書を以て鳴ったもので、浅草寺せんそうじ施無畏せむい匾額へんがくの如きは、人の皆知る所である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
いつか浅草寺せんそうじの境内で、敷石の辺から数珠屋じゅずやが並んでいます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
浅草寺せんそうじに向って右側で、御蔵おくらの裏がぐ大川になっており
浅草寺せんそうじ境内、江の島料理。
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
引き留められたのを幸いに、半七は坐り込んで煙草を吸いはじめると、浅草寺せんそうじの八ツ(午後二時)の鐘がきこえた。
話しながら、歩き出すと、こもの十郎とお稚児ちごのふたりは、もう浅草寺せんそうじ御堂みどうの縁へ行って、先に腰かけている。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうして米友は、淡島様から浅草寺せんそうじの奥山へ逃げ込み、奥山から裏の田圃たんぼへ抜けました。田圃へ来て見ると、もう追いかける人もあとが絶えたようであります。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
幼いころに浅草寺せんそうじの虫干しで見た地獄絵のような、赤いおそろしい火焔かえんがめらめらと舌を吐くさま、ふりみだした髪の毛から青い火をはなちながら、その火焔の中へとびこんでゆく女の姿
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
四半刻しはんどきも経ったころ、浅草寺せんそうじの昼の鐘が鳴りました。ど、どーんと」
側は漂渺ひょうびょうたる隅田の川水青うして白帆に風をはらみ波に眠れる都鳥の艪楫ろしゅうに夢を破られて飛び立つ羽音はおとも物たるげなり。待乳山まつちやまの森浅草寺せんそうじの塔の影いづれか春の景色ならざる。実に帝都第一の眺めなり。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
浅草寺せんそうじの五つ(午後八時)の鐘を聴いてから、次郎左衛門は暇を告げて出た。出るとやはり吉原が恋しくなった。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
てんで声もしない飢餓きがの群は、橋の下にも、浅草寺せんそうじの裏にも、ゴミ捨て場のように、蠅をかぶっていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれらはもう公然の夫婦で、浅草寺せんそうじに近いところに仮住居を求め、当分はなす事もなしに月日を送っていた。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
墓詣はかまいりといっても、故郷くには遠国なので、浅草寺せんそうじへでもお詣りして、何か一つ、今日は善いことをして帰ろうと思うのだ。……だから遊山のつもりで、一献ひとつりましょう
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あたりは旋風の跡の如き狼藉をきわめ、浅草寺せんそうじの屋根越しから黄色い夕月がぬッとのぞいていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お花さんにまず幾らか握らせて、向島あたりへ姐さんをおびき出して、ちょうど浅草寺せんそうじ入相いりあいがぼうん、向う河岸で紙砧かみぎぬたの音、裏田圃で秋のかわず、この合方あいかたよろしくあって幕という寸法だろう。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
龍泉寺町にすむ御徒士おかちといわせて、その身がらを引き取ってくると、ちょうど、浅草寺せんそうじの闇の中に、お十夜や周馬や一角などが、何か待ち伏せでもしているようなので
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
堺町さかいちょうの勘三郎芝居の御簾みすのかげ、浅草寺せんそうじの四万六千日、愛宕あたごの花見幕、綾瀬の月見、隅田の涼み船と——ほとんど、江戸人行楽の盛り場という盛り場で、見かけないというためしがないほど
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)