毛布ケット)” の例文
赤い毛布ケットかつぎ、「カリメラ」の銅鍋どうなべや青いほのおを考えながら雪の高原を歩いていたこどもと、「雪婆ゆきばンゴ」や雪狼ゆきオイノ雪童子ゆきわらすとのものがたり。
八十を越しても硫黄の熱はもえていた。小さい机にしがみついたまま、贅沢ぜいたくは身の毒になると、蛍火ほたるびの火鉢に手をかざし、毛布ケットを着て座っていた。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
恍惚こうこつとしてひとみを凝らしたりしが、にわかにおのれがまといし毛布ケットを脱ぎてけたれども、馭者は夢にも知らで熟睡うまいねせり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いでやと毛布ケット深くかぶりて、えいさえいさと高城にさしかかれば早や海原うなばらも見ゆるに、ひた走りして、ついに五大堂瑞岩寺ずいがんじ渡月橋とげつきょう等うちめぐりぬ。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
すみのところには古い帽子を冠り、古い外套がいとうを身にまとい赤い毛布ケットを敷いて、まだ十二月らしい顔付しながら、さびしそうに居眠りする鉄道員もあった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
膝の毛布ケットをけこみへ捨てて、お光さんは軽く俥を捨てた。石田屋という差入れ弁当屋だった。暗い店の腰かけにも四、五人の男たちが、めしを食べていた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ら云たって仕方しかたはないが、何しろ喰物くいものが不自由だろう、着物が足りなかろうと云て、れから宅にかえっ毛布ケットもって行てやったり、牛肉の煮たのを持て行て遣たり
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「さうか、それも出來ぬのか」と絶望したやうな悲しげな聲を出して行きなり毛布ケットを頭から被つた。
昨夜までは自分につかうること、主従の如くであったが、ここに至って無邪気なる彼は、いつの間にか自分の生命から二番目の赤毛布ケット——山中唯一の防寒具——を奪って
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
引きとめられて浪子は居残れば、幾は女中おんなと荷物になるべき毛布ケット蕨などとりおさめて帰り行きぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
それは兎に角、無暗と乃公に毛布ケットを巻付けて、写真を撮るのじゃあるまいし、っとしてお居で、凝っとしてお居でというのにはすくなからず弱った。熱苦しくて仕様がない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
こう云って女は男のひざの上に掛けている毛布ケットを引き退けて、自分が男の膝に腰を掛けた。自分のちょっとの悪いような気のしたのが忌々いまいましい。男の不機嫌なのが忌々しい。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
晩は晩で、毛布ケットのしたにちぢこまって、今にも患者から呼び出しが来やしまいかと、びくびくしている始末だ。この十年のあいだ、わたしは一日いちんちだって、のんびりした日はなかった。
私は夜帰って来て火を起すのも大儀だから直ぐ毛布ケットにくるまって寝てしまう。
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
毛布ケットぎ合せたようなあらい茶の外套がいとうの背中の右にそのひじを張って、肩と平行になるまでいからしつつ、とんとん胸をたたいている。まるで一種の器械の活動するようである。自分は再び歩き出した。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
赤い毛布ケットを巻きつけた むくんだ足
サガレンの浮浪者 (新字新仮名) / 広海大治(著)
小伝馬町の、現今いま電車の交叉点こうさてんになっている四辻に、夕方になると桜湯の店が赤い毛布ケットをかけた牀床しょうぎをだした。麦湯、甘酒、香煎こうせん、なんでもある。
がまで編んだ箕帽子みぼうしを冠り、色目鏡を掛け、蒲脚絆がまはばきを着け、爪掛つまかけを掛け、それに毛布ケットだの、ショウルだので身を包んだ雪装束の人達が私の側を通った。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
四顧寥廓しこりょうかくとして、ただ山水と明月とあるのみ。飂戻りょうれいたる天風てんぷうはおもむろに馭者の毛布ケットひるがえせり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
毛布ケットをおおい、顔には白木綿しろもめんのきれをかけて有之これあり、そのきれの下より見え候口もとあごのあたりいかにも見覚えあるようにて、尋ね申し候えば、これは千々岩中尉と申し候。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
しか流石さすがたたき起して毛布ケットを奪い返えすまでに、自分も従容しょうようと寝てはいられないのである、石で風を抑えた戸帳とばり代りの蓆一枚が、くられもしないのに、自分の枕許まくらもとに、どこよりともなく
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
乃公おれは再び毛布ケット巻きにされて身動きも叶わぬ。今度はお島が番人をしているから到底逃げる訳に行かない。けませんよとお島が泣きそうになるのにも構わず、乃公は乗出して此日記をつけた。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「それはあなたそんな厚い毛布ケットを着ていらっしゃるのですもの。」
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
戸板やたるを持出し、毛布ケットをひろげ、その上に飲食のみくいする物を売り、にわかごしらえの腰掛は張板で間に合わせるような、土地の小商人こあきんどはそこにも、ここにもあった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ある時、ヒョックリと現われた湯川氏は、赤い毛布ケットをマントのように着て手拭てぬぐい咽喉のどのところに結びつけていた。山籠やまごもりから急に自分の家にもゆかず長谷川うじをたずねて来たのである。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
馭者は愕然がくぜんとして顧みれば、わが肩に見覚えぬ毛布ケットありて、深夜の寒をまもれり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
茫然ぼうぜんとしてながめ入りし武男は、たちまちかしらより毛布ケットを引きかつぎぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
この田辺の家へ父が一度郷里の方から出て来た時のことは、岸本に取って忘れ難い記憶の一つであった。父は旅の毛布ケットやら荷物やらを田辺の家の奥二階でほどいて、そこで暫時しばらく逗留とうりゅうした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)