毒蛇どくじゃ)” の例文
河また河、谷また谷、ぼうぼうたる草は身を没して怪きん昼もく、そのあいだ猛獣もうじゅう毒蛇どくじゃのおそれがある、蕃人ばんじん襲来しゅうらいのおそれもある。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
うん、うん、黄色い毒蛇どくじゃが床をはいだした。美与子、こわいか。今こそおまえの断末魔だぞ。ウフフフフフ、ブルブルふるえているな。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
なんの映画であったか忘れたが東洋物の場面の間に、毒蛇どくじゃとマングースとの命がけの争闘を写したものをはさんだのがあった。
映画時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
金将軍はふと桂月香の妊娠にんしんしていることを思い出した。倭将の子は毒蛇どくじゃも同じことである。今のうちに殺さなければ、どう云う大害をかもすかも知れない。
金将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
紳士 口でな、う其の時から。毒蛇どくじゃめ。上頤うわあご下頤したあごこぶし引掛ひっかけ、透通すきとおる歯とべにさいた唇を、めりめりと引裂ひきさく、売婦ばいた。(足を挙げて、枯草かれくさ踏蹂ふみにじる。)
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ステッキの中にひそんでいた青斑あおまだら毒蛇どくじゃが、蓋が明いたとたんに、警部モロのゆびさきにみついたのである。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
遠くからながむると、あたかも高地の頂の方へ巨大なる二個の鋼鉄の毒蛇どくじゃがはい上がってゆくがようだった。それは一つの神変のごとくに戦場を横断していった。
あのお城のぐるりには毒蛇どくじゃりゅうが一ぱいいて、そばへ来るものをみんな殺してしまいます。
黄金鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
幾人も奴隷どれいを目の前に引き出さして、それを毒蛇どくじゃ餌食えじきにして、その幾人もの無辜むこの人々がもだえながら絶命するのを、まゆも動かさずに見ていたという插話を思い出していた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
猛獣や毒蛇どくじゃおびやかされることもあった。夜は洞穴ほらあな寂寞せきばくとして眠った。彼と同じような心願しんがんを持って白竜山へ来た行者の中には、麓をさまようているうちに精根しょうこんが尽きて倒れる者もあった。
仙術修業 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この洞界地方には、毒蛇どくじゃ悪蝎さそりがたいへんいますからお気をつけなさい。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでもハムーチャは後に引返しませんでした。木や草の実を食ったり、谷川の水を飲んだりして、進んで行きました。獅子ししの森や、毒蛇どくじゃの谷や、わしの山や、いろんな恐ろしい所を通りぬけました。
手品師 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
振りかぶった一刀は、毒蛇どくじゃのごとくりゅうとひらめきます。
彼は毒蛇どくじゃにでも近づく様に、用心しながら、その生白いものの側にしゃがんで、五本の白くて太い葉を、イヤ、指を見つめた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
草をむしれ、馬鈴薯じゃがいもを掘れ、貝を突け、で、焦げつくやうな炎天、よる毒蛇どくじゃきり毒虫どくむしもやの中を、むち打ち鞭打ち、こき使はれて、三月みつき半歳はんとし、一年と云ふうちには、大方死んで
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
現にあの琉球人なぞは、二人とも毒蛇どくじゃまれた揚句あげく、気が狂ったのかと思うたくらいじゃ。その内に六波羅ろくはらから使に立った、丹左衛門尉基安たんのさえもんのじょうもとやすは、少将に赦免しゃめんの教書を渡した。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
病室からながめられる生理学教室の三階の窓、密閉された部屋へや、しごき帯、……なんでもかでもが自分の肉を毒蛇どくじゃのごとく鎌首かまくびを立てて自分を待ち伏せしているように思えた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
船は一上一下、奈落ならくの底にしずむかと思えばまた九天にゆりあげられる、あらしはますますふきつのり、雷鳴らいめいすさまじくとどろいていなづまは雲をつんざくごとに毒蛇どくじゃの舌のごとくひらめく。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「ああ、あれは巨人ハルクです。青斑あおまだら毒蛇どくじゃは、ハルクにわたしておきました」
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
部屋じゅうに、煙がもうもうとうずまき、一方の壁は半分焼け落ちて、まっかなほのおが、何千ともしれぬ毒蛇どくじゃの舌のように、めらめらとてんじょうをなめていました。
魔法人形 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、う申すのではござりませぬか、と言ひもだ果てなかつたに、島の毒蛇どくじゃ呼吸いきを消して、椰子やしの峰、わにながれ蕃蛇剌馬ばんじゃらあまんの黄色な月も晴れ渡る、世にもほがらかなすずしい声して
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
愛子一人ひとりぐらいを指の間に握りつぶす事ができないと思っているのか……見ているがいい。葉子はいらだちきって毒蛇どくじゃのような殺気だった心になった。そして静かに岡のほうを顧みた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
光枝は毒蛇どくじゃあぎとをのがれる心地ここちして、旦那様の前を退さがった。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
李花は猛獣に手を取られ、毒蛇どくじゃはだまとはれて、恐怖の念もあらざるまで、遊魂ゆうこん半ば天にちょうして、夢現の境にさまよひながらも、神崎を一目見るより、やせたるほおをさとあかめつ。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「えっ、青斑あおまだら毒蛇どくじゃを……」
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)