櫺子れんじ)” の例文
そこで柳町のねえさんたちや、細紐ひとつの飲屋の女たちが、櫺子れんじや格子から昼寝をさました白粉おしろいまだらな顔をつきのばしていますと
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ははははは。門迷とまどいをしちゃア困るぜ。何だ、さッきから二階の櫺子れんじから覗いたり、店の格子に蟋蟀きりぎりすをきめたりしていたくせに」
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
その内にふと男の耳は、薄暗い窓の櫺子れんじの中に、人のゐるらしいけはひを捉へた。男はほとんど何の気なしに、ちらりと窓を覗いて見た。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
なかすいて、塔婆に映って、白粉おしろいをちらりと染めると、唇かと見えて、すっと糸を引くように、櫺子れんじの丸窓を竹深く消えたのである。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今夜の雨を幸いに、外記はおはぐろどぶの外に待っていた。宵の口の混雑にまぎれて、綾衣は櫺子れんじ窓を破って屋根伝いに抜け出した。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「坊んち、あかん、そんなもん持つて遊ぶんでは、嫁はん貰へん。」と、平七の家内は襷がけで、櫺子れんじ窓から見ながら言つた。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
どれも、これも粗末な木口を使った安普請で、毒々しく塗り立てた格子や、櫺子れんじ窓の紅殻色が、むっとするような不快な感じを与えるのです。
島原心中 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
細い櫺子れんじの窓からだけ明りを採り入れている部屋部屋の、ずっと奥まった中の間のような所に、私達は寝泊りしていた。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
窓には櫺子れんじ格子が嵌って、すぐ下が庭になるから、この窓から忍び出すということは出来ない。後に残ったのはハッチソンと岩井通保の部屋である。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
中はそんなに暗いのだけれど、無双窓の櫺子れんじの外はまだうす明るく、かえでの青葉が日中よりはかえってえて織り物のようなあざやかな色をのぞかせている。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
櫺子れんじの外にコツコツと格子を叩く音がする。あ之で目が覺めたのだなと思つて、お定は直ぐ起上つて、こつそりと格子をはづした。丑之助が身輕みがるに入つて了つた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
二人は鳶口をりながら追っかけた。そして、数町すうちょう往ったところで、その火の玉はあるろじへ折れて、その突きあたりの家の櫺子れんじ窓からふわふわと入ってしまった。
遁げて往く人魂 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
廊下の電燈の光が、櫺子れんじ窓の黝ずんだ擦硝子に漉されて、ぼーっとした明るみを送っている。そのめしいた朧ろな明りが見ようによって、或は赤っぽく、或はだだ白い。
(新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
道具を片附けて油手を拭いてゐると、櫺子れんじの外の生垣を籠めてしと/\と青く降る雨に、どこか間近い草の中で、まだ早い蟋蟀こほろぎが一匹、ひそ/\と青白い糸を引くやうに鳴いてゐる。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
間夫まぶ」、「結び文」、「床へさし込むおぼろ月」、「櫺子れんじ」、「胸づくし」、「とりくまで」、「手管てくだ」、「口舌くぜつ」、「よいの客」、「傾城の誠」、「つねる」、「廊下をすべる上草履うわぞうり
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
その倉庫の二階の櫺子れんじ窓から白い手が出て一心に彼をさし招いている。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
櫺子れんじの外に 雨が降る
寝転んでいたほうもムクムク起きて、腹匍はらばいのまま櫺子れんじへ顔を乗せたものだ。これだから女の巣を食う町に無用な顔はして立ち止まれない。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分もよく知らないが、なんでもゆうべの夜中にどこからか帰って来て、縁の下や台所の櫺子れんじ窓からぞろぞろと入り込んだものらしいと云った。
半七捕物帳:12 猫騒動 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
竹の櫺子れんじをつけたいかにも床しい数奇屋がまえなのに、掛軸はかけず、床柱の花籠に申訳のようにあざみ刈萱かるかやを投げいれ、天井の杉板に金と白緑びゃくろくでいちめんに萩が描いてある。
ユモレスク (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
少許すこし待つてから持出さうと、お八重は言ひ出したが、お定はちよつと躊躇してから、立つとあかりとりの煤けた櫺子れんじに手をかけると、端の方三本許り、格子が何の事もなく取れた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
何だか汗ばんだやうに暑くろしくなつたおくみは、茶の間の戸棚を開けて、買つときのお菓子の鑵を出すのに、櫺子れんじから来るそよ/\した風が、襟足のあたりに小嬉しいやうであつた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
私はそれからその廃寺の八重葎やえむぐらの茂った境内にはいって往って、みるかげもなく荒れ果てた小さな西金堂さいこんどう(これも天平の遺構だそうだ……)の中を、はずれかかった櫺子れんじごしにのぞいて
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
しかしあとで熟考してみると、そのサアァッという透明な響きのようなものの記憶表象には、必ずあの建物の古びた朱の色と無数の櫺子れんじとの記憶表象が、非常に鮮明な姿で固く結びついているのです。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
櫺子れんじの下へ涼み台を持ち出して川長の一人娘、お米の待つのは誰であろうか。恋とすれば、よすぎる縹緻きりょうが心にくくもある。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父も母もまだ爐邊ろばたに起きてるので、も少し待つてから持出さうと、お八重は言ひ出したが、お定はと躊躇してから、立つとあかりとりの煤けた櫺子れんじに手をかけると、端の方三本許り
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
屋根の棟に堅魚木かつおぎなどのせた、屋敷ともやしろともつかぬ家の奥から、銀の鈴でも振るような微妙な音がしたかと思うと、櫺子れんじを押上げて現れて来た、年のころ四十ばかりの病みやつれた女。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
おくみは櫺子れんじの戸を開けてきちんと昼の着物の帯をしめた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
雨だれにこけさびている石がある。それに足をのせると、ちょうど窓へ頭だけ届いた。彼は竹の櫺子れんじのあいだから、そっと半分ほど、窓の戸を開けた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もとはどういう邸だったのか、竹の櫺子れんじをつけた、いかにも床しい数寄屋がまえなのに、掛軸はかけず、床柱の花籠に、申訳のように薊と刈萱を投げいれ、天井の杉板に金と白緑で萩が描いてある。
野萩 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
目を覺ますと、弟のお清書を横に逆まに貼つた、枕の上の煤けた櫺子れんじが、僅かに水の如く仄めいてゐる。誰もまだ起きてゐない。遠近をちこちで二番鷄が勇ましく時をつくる。けたゝましい羽搏はばたきの音がする。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ただし彼の背丈せたけでは寸法がちと足らない。そこで城太郎は、植込みの間から石をころがして来てそれへ乗ってみた。——竹の櫺子れんじにやっと鼻が届く。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
目を覚ますと、弟のお清書を横にさかしまに貼つた、枕の上の煤けた櫺子れんじが、僅かに水の如く仄めいてゐた。誰もまだ起きてゐない。遠近をちこちで二番鶏が勇ましく時をつくる。けたたましい羽搏きの音がする。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
湯気の中なる彼の顔へ、高い櫺子れんじから日光が降りそそいで来る。見るまに、彼の顔は赤黒くゆだって、その額から玉の汗がにじみ出し、無数の小さい湯気の虹が立った。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は盲鼠めくらねずみのように、床の上に跳びあがり、柱にぶつかり壁にぶつかった。そして、窓にさす星明りを見るやいな、櫺子れんじに五体を打ちつけて、その破れから外へ身を躍らせた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを見つけると、櫺子れんじの首や、格子先に飛びだしている女どもが、騒ぎはそッちのけで
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けても、火鉢に炭をつぐ世話もいらない程の陽気だし、桜花はなも今夜あたりでおしまいだろう、櫺子れんじの外には、まだ戸をてない頃から、春雨の音がしとしとと降りつづいていた。
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
襟すじへスウと風が来たので、お粂はムカッとしてうしろの櫺子れんじ窓を見ました。案のじょうです、そこの小障子を四寸ほどあけて、外から罪なところを覗き見している馬の如き長いつら
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
両方に飛び別れて、後ろの櫺子れんじをふりかえった。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)