かぢ)” の例文
八五郎が刷毛はけ先でかぢを取つて、明神下の家に乘り込んで來たのは、月が圓くなつた頃、ある夜の戌刻いつゝ(八時)過ぎでした。
くるまをがら/\と門前迄乗り付けて、此所こゝだ/\とかぢ棒をおろさした声はたしかに三年前わかれた時そつくりである。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
堺の大浜に隠居して、三人の孫を育ててゐるおかぢが、三歳になるすゑの孫を負つて入つて来た。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
着飾きかざつた若い花見の男女をせていきほひよく走る車のあひだをば、おとよせた老車夫はかぢりながらよた/\歩いて橋を渡るやいな桜花あうくわにぎはひをよそに、ぐとなかがうまがつて業平橋なりひらばしへ出ると
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
げん其處そこいだともかたれるは、水深すゐしんじつ一千二百尺いつせんにひやくしやくといふとともに、青黒あをぐろみづうるしつて、かぢすべにかはし、ねば/\とかるゝ心地こゝちして、ふねのまゝにひとえたいはくわしさうで
十和田の夏霧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
見忘れたか汝等能く聞け身延山みのぶさん會式ゑしきもどり罪作りとは思へども見るに忍びぬ此場の時宜しぎいのち暫時ざんじたすけ船七十五里の遠江灘とほたふみなだ天窓あたまの水先押まげて尻を十ぶんまくに早くみなとにげ込て命ばかりの掛り船ドリヤかぢ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
祇園会ぎをんゑや僧の訪ひよるかぢがもと
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
「彌造を二つこせえて、顎でかぢを取りながら、町内中の良い新造をおそつて歩く八五郎の方が餘つ程意氣なんだが——」
 勅使は此家にかぢと申女る由此所へいだしませいと云るゝに彌々いよ/\仰天ぎやうてんしながら何事やらんと漸々やう/\連出しかば 勅使は其方は冥加みやうがかなひし者かな汝が詠歌えいか殿下でんかへ相聞え其上 當吟たうこんの 叡覽えいらんそなへられし所名歌めいかなりとて仙歌へ御くはへ遊ばされなほ又 叡感えいかんの餘り 御宸筆しんひつ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
尤も合掌した手を膝と膝との間に挾んで、肩とあごかぢを取り乍ら話すのですから、あまりお品は良くありません。
妙に人馴れた眼、少しほころびた唇、クネクネと肩でかぢを取つて、ニツと微笑したお菊は、椎茸髱しひたけたぼと、古文眞寶こぶんしんぱうな顏を見馴れた土佐守の眼には、驚く可き魅力でした。
甚だ氣の進まない樣子ですが、此處から歸るわけにも行かず、トボトボと顎でかぢを取ります。
三日目の朝、もう一度八五郎が、髷節でかぢを取り乍ら飛び込んで來ました。