晃々こうこう)” の例文
今彼が新九郎の機微きびから見出したものは、実に薄衣に包んだ名刀が、晃々こうこうたる光りをうちに隠して現われないような彼の天才である。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身を沈めて飛び来る石瓦をかわしながら、後ろを振返ってムクに合図をすると、竿の頭から五色の網を払いのける、めい晃々こうこうたる淡路流の短い穂先。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
せんの向島の大連の時で、その経験がありますから、今夜は一番ひとつあかり晃々こうこうとさして、どうせあらわれるものなら真昼間まっぴるまおいでなさい、明白でい、と皆さんとも申合せていましたっけ。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昼のように明るい冬の月が晃々こうこうと高くかかって、碧落へきらく千里の果てまでも見渡されるかと思われる大空の西の方から、一つの黒い影がだんだんに近づいてきた。それは鳥である。鷲である。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
晃々こうこうとしてさし昇る日輪の強い光に、ぼい消されて、空がかっとする、もう仰いでいると、眼のまわりが、ぼやけてしまって、空だか山だか、白金のように混沌として分らない、霞沢岳や八右衛門岳は
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
すでにしもえられた龍牙りゅうが短刀たんとう、もしくはながき秋水しゅうすい晃々こうこうたる剣陣けんじんを作って、すばやくふたりのげ道をかこんでしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紺地に金泥こんでいのごとく、尊い処へ、も一つのへやには名も知れない器械が、浄玻璃じょうはりの鏡のように、まるで何です、人間の骨髄をとおして、臓腑を射照らすかと思う、晃々こうこうたる光を放つ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
右往左往して騒ぐうちに、間もなくそこは、晃々こうこうとした灯の明りに、物の蔭もなくなって、仰むけに寝かされた重喜の顔だけが青白かった。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぼうと天井から一幅ひとはば落ちたが、四辺あたりが暗くて、その何にも分らぬ……両方の棚に、ひしひしと並べた明晃々こうこうたる器械のありとも見えず、しんとなって隠れた処は、雪に埋もれた関らしく
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、こはいかに、そこには燈火の光が白日の如く晃々こうこう耀かがやいてはいたが、人はみな酔い伏しているだけで、一人として起って振り向く者もいない。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
月は晃々こうこうと露もある、停車場のたたきを歩行あるくのが、人におくれて我一人……
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
孫権は群臣と共に、階を隔てて傲然ごうぜんと待ちかまえる。千余人の武士は、階下から宮門にいたるまで、げきほこ、鎗、おのなどを晃々こうこうと連ねて並列していた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
対合むかいあった居附いつきの店の電燈瓦斯がす晃々こうこうとした中に、小僧のかげや、帳場の主人、火鉢の前の女房かみさんなどが、絵草子の裏、硝子がらすの中、中でも鮮麗あざやかなのは、軒に飾った紅入友染べにいりゆうぜんの影に、くっきりとあらわれる。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかもその頃になると、空はふたたび晴れて、晃々こうこうたる月天に返り、一時の黒雲は夢かのように考えられた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
晃々こうこうたる霜の夜も、あめ蕭々しょうしょうたる夏の朝も、行者の必死な練磨は間断なくつづいた。時には鳥獣を対手あいてに技を試み、ある時は飛魚を狙って術の会得えとくをあせる様子。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
評定ひょうじょうのあかりは、晃々こうこうと照って、席には一族の権六勝敏ごんろくかつとし、おなじく勝豊かつとよ徳山則秀とくやまのりひで不破光治ふわみつはる、小島若狭守わかさのかみ毛受勝介めんじゅかつすけ佐久間玄蕃允さくまげんばのじょうなど、万夫不当ばんぷふとうの北国衆が
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さやを払ってみたところが、研げていないどころではない——晃々こうこうと百年の冴えをあらためて、ふちの水かとも、深くて蒼黒い鉄肌かねはだから——さんとして白い光がね返したのである。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どこの部屋からも、明り一つささないが、家の中央の広間からは、晃々こうこうと灯影が洩れていた。そればかりでなく、一種異様な人間臭さがむうと、そこからぬるくながれてくる。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
弦之丞の烈刀れっとうにあたって血みどろになったものが、少なくも八、九名はのた打っている筈だが、残余の氷刃が一ヵ所に晃々こうこう集立しゅうりつすると、いっこう人数が減ったとはみえない。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その挙止は縹渺ひょうびょう、その眸は晃々こうこう、雲をしのぐ山とも見え、山にかくされた月とも思われる。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
向うを見ると、雪の間、青嵐せいらん秋錦しゅうきんの間、小さな燭が晃々こうこうとかがやいて、今しも、酒宴の終ったところか、鉤のの廻廊を退がって来る侍の影が点々とお錠口へ流れてくる。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして晃々こうこうたる宝刀のやいばに向って、の髪の毛を、ふッと静かな息で吹き起すと
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
晃々こうこうと、あかりと家臣をそこに集めて、すぐ翌日の手筈てはずや協議であった。家臣たちの顔もみな硬ばっている。誰も、深夜の内匠頭の青白い顔や、食事の量にまでは、気がつかないであろう。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
晃々こうこうたる菊のの燭へ正面を切ッて、おくする色もなく重喜のおもてを見上げた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
がねごえでこう叫んだのを見ると、雲つくような大男が三人、大小ッこみ、侍すがた、へべれけにって熟柿じゅくしのようないきをはき、晃々こうこうたる大刀をぬきはらい、花や女子おなごの踊りにまじって
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
晃々こうこう、文醜の大剣。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)