数奇すき)” の例文
旧字:數奇
十三絃じゅうさんげんを南部の菖蒲形しょうぶがたに張って、象牙ぞうげに置いた蒔絵まきえした気高けだかしと思う数奇すきたぬ。宗近君はただ漫然といているばかりである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もっともこの界隈かいわいにはこう云う家も珍しくはなかった。が、「玄鶴山房げんかくさんぼう」の額や塀越しに見える庭木などはどの家よりも数奇すきを凝らしていた。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その時、寮のどこかに起こった怪火は、折りから暁の風になぶられて、みるみるうちに、数奇すきをこらした建物をひとなめ……。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
手術てわざが持ち前で好き上手じょうずであるので、道楽半分、数奇すき半分、慾得よくとくずくでなく、何か自分のこしらえたものをその時々の時候に応じ、場所にめて
しかしながら、此のうら若い少女の細っそりとしたすがたをなすっていられる菩薩像ぼさつぞうは、おもえば、ずいぶん数奇すきなる運命をもたれたもうたものだ。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
裏庭などは数奇すきを凝らした一流の料亭のそれのようであり、屋敷の周囲には土塀さえ巡らし、所の名主甚兵衛様より、屋敷は立派だと云われていた。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
平家づくりで、数奇すき亭構ちんがまえで、かけひの流れ、吹上げの清水、藤棚などを景色に、四つ五つ構えてあって、通いは庭下駄で、おも屋から、その方は、山の根に。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ずつと晩年は数奇すき者が依頼する秋成自著の中でも有名な雨月などの謄写とうしゃをしてその報酬でとぼしく暮して居た。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
きょう銀閣寺ぎんかくじ金閣寺きんかくじ庭園ていえん数奇すきかぎりをつくした、たいそう贅沢ぜいたくなものとかねてききおよんでりますので、ときわたくしはこちらからのぞいてたことがございますが
数奇すきを凝らした尾彦楼の寮でさえも、鳥渡見ちょっとみだけだと、何処からか花鋏の音でも聴えて来そうであって……、如何さま富有な植木屋が朝顔作りとしか、思われない。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
東山義政ひがしやまよしまさ数奇すきと風雅をこらしたにわがあった。紫陽花あじさい色の夕闇に、灯に濡れたこけの露が光っていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふもとにも、芝生の上にも、泉水のほとりにも、数奇すきを凝らした四阿あずまやの中にも、モーニングやフロックを着た紳士や、華美なすそ模様を着た夫人や令嬢が、三々伍々さんさんごご打ちつどうているのだった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
其れに湖はだ凍らずに御納戸おなんど色をたゝへ、遊客いうかくの帰つて仕舞しまつた湖畔の別荘やホテルがいろいろに数奇すきを凝らした美しい建築を静かに湖水に映して居たのは目もめる心地がした。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
さういふ時は草の上や、又は数奇すきを凝した休憩所で辨当を食べて帰る。帰り道に馬車をゆるゆるかせて通ると、道の両側から、鳩の群に取り巻かれた、牧場まきば帰りの男や女が礼をするのである。
クサンチス (新字旧仮名) / アルベール・サマン(著)
小さいながら数奇すきを凝らした屋敷に住むようになっていたそうです
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼女は、かずかずの数奇すきな運命に娘心を打たれたというふうで
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
よろづ数奇すきを備へて粋士の住家とは何人なにびとも見誤らぬべし。
秋窓雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
食ってるのは情ない訳だ、君が特別に数奇すきなものが無いから困難なんだよ。二個以上の物体を同等の程度で好悪こうおするときは決断力の上に遅鈍なる影響を与えるのが原則だ
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
スタスタと門をくぐって、数奇すきをきわめた植えこみのあいだを、奥のほうへ——。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「ああ僕のように忙がしいと文学などは到底とうてい駄目さ。それに以前からあまり数奇すきでない方だから」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)