掻取かいと)” の例文
もすそは長く草にあおつて、あはれ、口許くちもとえみも消えんとするに、桂木はうあるにもあられず、片膝かたひざきっと立てて、銃を掻取かいとる、そでおさへて
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しいたけたぼにお掻取かいとり、玉虫色の口紅くちべにで、すっかり対馬守おそばつきの奥女中の服装なりをしているが、言語ことばつきや態度は、持ってうまれた尺取り横町のお藤姐御あねごだ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と半治は立廻りながら小兼の油断を見済まして剃刀を叩き落し、手早く掻取かいとりて
為様しやうがないねえ、)といひながら、かなぐるやうにして、細帯ほそおびきかけた、片端かたはしつちかうとするのを、掻取かいとつて一寸ちよいと猶予ためらふ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
含羞はなじろまぶたを染めて、玉のうなじ差俯向さしうつむく、ト見ると、雛鶴ひなづる一羽、松の羽衣掻取かいとって、あけぼのの雲の上なる、うたげに召さるる風情がある。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(しょうがないねえ、)といいながら、かなぐるようにして、その細帯を解きかけた、片端かたはしが土へ引こうとするのを、掻取かいとってちょいと猶予ためらう。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これを聞いて、かがんで、板へ敷く半纏はんてんすそ掻取かいとり、膝に挟んだ下交したがいつま内端うちわに、障子腰から肩を乗出すようにして、つい目のさきの、下水の溜りに目を着けた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
といいあえず、上着の片褄かたづま掻取かいとりあげて小刻こきざみに足はやく、さっと芝生におり立ちぬ。高津は見るより
誓之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(市川菅女。)と莞爾々々にこにこ笑って、澄まして袷を掻取かいとって、襟を合わせて、ト背向うしろむきにうなじじて、衣紋えもんつきを映した時、早瀬が縁のその棚から、ブラッシを取って
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うさぎをどつて、仰向あふむけざまにひるがへし、妖気えうきめて朦朧まうろうとしたつきあかりに、前足まへあしあひだはだはさまつたとおもふと、きぬはづして掻取かいとりながら下腹したばらくゞつてよこけてた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「ええ華族様は気の長いもんだ。」「素直に待ってちゃあらちが明かねえ。」「蹈込ふんごめ。」と土足のまま無体に推込おしこむ、座敷の入口、家令と家扶はたすき綾取あやどり、はかま股立ももだち掻取かいとりて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きぬを脱して掻取かいとりながら下腹をつとくぐって横に抜けて出た。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
頭巾をば掻取かいとりたる、小親の目のふちあかかりき。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)