手欄てすり)” の例文
鉄の手欄てすりにすがって振り向くと、古藤が続いて出て来たのを知った。その顔には心配そうな驚きの色があからさまに現われていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「どれ、拙者が喜捨きしゃしてつかわそう」森啓之助が、なにがしかの小粒銀を紙入れからつかみだして、手欄てすりの方へ立ち上がった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手欄てすりをこすって降りてゆく。(八つから十五までがピオニェールだ。それより小さい子は、みんな十月の児オクチャブリターと呼ばれる。)
楽しいソヴェトの子供 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「里見さん」と呼んだ時に、美禰子は青竹の手欄てすりに手を突いて、心持こゝろもちくびもどして、三四郎を見た。何とも云はない。手欄てすりのなかは養老の滝である。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それ喧嘩だというと、大勢がくずれて、私たちの跳ね出し店の手欄てすりを被り、店ぐるみ葭簀張よしずばりを打ち抜いて、どうと背後うしろまで崩れ込んで行ったものです。
入った所はホールになっていて、その正面に、二階への階段の彫りもののある手欄てすりが大蛇の様にうねっていた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
端書の面の五分の四くらいまで書くと、もう何も書く事がなくなったので、万年筆を握ったまま、しばらくぼんやり、縁側の手欄てすり越しに庭の楓樹かえでの梢を眺めていた。
小さな出来事 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そこで彼は階下したへ下りて行きましたが、そのとき彼が手でずうっと撫でて下りた階段の手欄てすりが、磨いた金の棒になってしまったので、またにこにこ顔になりました。
その影は消えて、僕のからだは廊下の明かり窓の手欄てすりに支えられているのに気がついた時、初めて僕はぞっとして髪が逆立つと同時に、冷や汗が顔に流れるのを感じた。
廊下の手欄てすりに垂れたすだれの外には、綺麗に造られた庭の泉水に、涼しげな水が噴き出していたり、大きな緋鯉ひごいが泳いでいたりした。あおい水のおもてには、もう日影が薄らいでいた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
手欄てすりより下階したのぞきて声を張上げ店番を呼立たり。
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
葉子はそのむなしい哀感にひたりながら、重ねた両手の上に額を乗せて手欄てすりによりかかったまま重い呼吸をしながらほろほろと泣き続けた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
上の手欄てすりから見つめているうちに、お綱は夢ともうつつとも知らない境に、骨のずいまで沁みわたるほどなゾッとする恋慕の寒気さむけにとりつかれた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「里見さん」と呼んだ時に、美禰子は青竹あおだけ手欄てすりに手を突いて、心持ち首をもどして、三四郎を見た。なんとも言わない。手欄のなかは養老の滝である。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは隣りの店の余りで、池の上に跳ね出しになっているのです。前は手欄てすりで、後は葭簀張よしずばり、大きいのから高い方へ差し、何んでも一体に景気の沸き立って見えるように趣向をする。
葉子は母に呼び立てられた少女のように、うれしさに心をときめかせながら、船橋の手欄てすりから下を見おろした。そこに事務長が立っていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そしてあのときの晁蓋ちょうがいの手紙は、ついまだ読むひまもなく書類挟みに入れてあるので、それらを大事にまとめて、寝台の細い手欄てすりへ掛けておく。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
野々宮は右の手を竹の手欄てすりから出して、菊の根をしながら、何か熱心に説明してゐる。美禰子は又むかふをむいた。見物に押されて、さつさと出口でぐちの方へ行く。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その手欄てすりに掴まりながら、彼は、首をのばして、硝子ガラス窓のうす暗い明りへ呼びかけた。白い寝床ベッドがトムの眼に映った。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
野々宮は右の手を竹の手欄てすりから出して、菊の根をさしながら、何か熱心に説明している。美禰子はまた向こうをむいた。見物に押されて、さっさと出口の方へ行く。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
葉子は手欄てすりに両手をついてぶるぶると震えながら、その女をいつまでもいつまでもにらみつけた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
深編笠のつばに片手をかけながら、いつのまにか、死人形の飾ってある青竹の手欄てすりの前にぴたと足を止めて
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あがぐちの一方には、落ちない用心に、一間ほどの手欄てすりこしらえてあった。お延はそれにって、津田の様子をうかがった。するとたちまち鋭どいお秀の声が彼女の耳にった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ためらう事なくクララは部屋を出て、父母の寝室の前の板床いたゆかに熱い接吻を残すと、戸をけてバルコンに出た。手欄てすりから下をすかして見ると、やみの中に二人の人影が見えた。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
何かしらと思って、宅助がトロリと眼をすえて見ると、舞台の手欄てすりにすえつけてある、遠眼鏡とおめがねという機械。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手を青竹の手欄てすりから離して、出口の方へ歩いて行く。三四郎はすぐあとからついて出た。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
握りつぶしてはびんから引き抜いて手欄てすりから戸外に投げ出した。薔薇ばら、ダリア、小田巻おだまき、などの色とりどりの花がばらばらに乱れて二階から部屋の下に当たるきたない路頭に落ちて行った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「ちぇっ……」舌打ちして戻りかけた侍、ひょいと淀屋橋の上を仰ぐと、のしおがたに顔を包んだい女が、橋の手欄てすりに頬杖ついて、こっちへニッコリ笑ったものだ。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手を青竹の手欄てすりからはなして、出口でぐちの方へあるいて行く。三四郎はすぐあとからいてた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
段と段との隔たりが大きくておまけに狭く、手欄てすりもない階子段を、手さぐりの指先に細かい塵を感じながら、折れ曲り折り曲りして昇るのだ。長い四角形の筒のような壁には窓一つなかった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
苦もなく二階の露台ベランダへ上ったトムは、そこの扉を押してみたが開かないので、やがて今度は物干綱の先に何やら結びつけて、何度も何度も三階の手欄てすりへそれをほうっていた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上は大穹窿おおまるがた天井てんじょう極彩色ごくさいしきの濃く眼にこたえる中に、あざやかな金箔きんぱくが、胸をおどらすほどに、さんとして輝いた。自分は前を見た。前は手欄てすりで尽きている。手欄の外にはにもない。大きな穴である。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
倉地が部屋を出ると葉子は縁側に出て手欄てすりから下をのぞいて見た。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そしてそこの階段の手欄てすりに、猛獣のように縛りつけられている武蔵のすがたをながめ合って
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紫紺地しこんじの頭巾におもてをくるんだ弦之丞と、青い富士形の編笠に紅紐べにひもをつけて、眉深まぶかくかぶったお綱とは、せわしない往来をよけて、農人橋のうにんばし手欄てすりから川の中を見下ろしていた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
トムは遂に、手欄てすりを跨いで、ぴったりと、硝子へ身を寄せた。懸命に、必死に、そして注意ぶかい低い声で、なんども呼び声をくり返した。ガラッと窓が上へ開いた。そして
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とばかり、客席の中でも上等な桟敷さじきへご安座をたてまつる。といっても板の腰掛け、丸太の手欄てすり。どっちみち雷横は“酔ざまし”が目的なのでもうすぐそれに頬杖かけて、居眠ッていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寝台の手欄てすりへと、彼女の白い手が走った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)