たい)” の例文
「何しろ、たいな世の中になったものです。お犬様には、分るでしょうが、人間どもには何が何だか、わけが分りませんな」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夕立雲ゆふだちぐも立籠たちこめたのでもなさゝうで、山嶽さんがくおもむきは墨染すみぞめ法衣ころもかさねて、かたむらさき袈裟けさした、大聖僧だいせいそうたいがないでもない。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この短歌は余り細かく気を配らずに一いきにいい、言葉の技法もまた順直だから荘重に響くのであって、賀歌としてすぐれたたいをなしている。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
たまた荷葉かよう披麻ひますものあり、波浪をあろうてもっず、交替去来、応接にいとまあらず、けだし譎詭けっき変幻中へんげんちゅう清秀せいしゅう深穏しんおんたいぶ。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
最も奇とすべきは溝部で、或日偶然来て泊り込み、それなりに淹留えんりゅうした。夏日かじつあわせに袷羽織ばおりてんとして恥じず、また苦熱のたいをも見せない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「あいや、ご無用、まだ早うござる。……なるほど防身うけみは確かでござる。が果たして射術の方は? ……両様のたい定った暁、何も彼もお明しなさるがよろしい」
弓道中祖伝 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
其後石は安然あんぜんに雲飛の内室ないしつ祕藏ひざうされて其清秀せいしうたいかへず、靈妙れいめううしなはずして幾年いくねんすぎた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
別にいやな顔もせず、一口の不平もこぼさず、不規則に酒を飲んだり、物を食ったり、女を相手にしたり、していながら、何時いつ見ても疲れたたいもなく、さわぐ気色もなく、物外に平然として
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
放逸ほういつ曠達こうたつたい無し。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「さっきから、ああやって、じっと、うずくまったままだぞ。たいなやつ。何しているのか、見とどけてこい」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そんならいが」と爺いさんは云ったが、娘の答にどこやら物足らぬ所のあるのを感じた。問う人も、答える人も無意識に含糊がんこたいをなして物を言うようになったのである。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
別にいやかほもせず、一口ひとくちの不平もこぼさず、不規則に酒を飲んだり、ものつたり、女を相手にしたり、してゐながら、何時いつ見てもつかれたたいもなく、さわぐ気色もなく、物外に平然として
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
と英吉大照れになって、後ざまに退さがって(おお、神よ。)と云いそうなたいになり
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
止めて、守備のたいをとることです。渡口を固め、要害を擁し、水中には遠くにわたって水寨を構え、一大要塞としておもむろに、敵を誘い、敵の虚を突き、そして彼の疲れを待って、一挙に、下江を
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その一刻のあいだに秀吉は、江北の敗れをもって、むしろ天与の勝機と断じ、立ちどころに、全軍の大方略を一決し、乾坤けんこんてきの大道十三里余にわたる途々みちみち布令ふれまで先駆させて、ここにはらたい
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)