愁眉しゅうび)” の例文
「急に意識が回復し始めて来て、主治医しゅじいもこの分なら生命に別条なかろうと申しましたので、今朝は一同稍〻やや愁眉しゅうびを開いたところです」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
むしろ、一とうの人は、それで愁眉しゅうびをひらいていた。しかし、愁眉のひらかれぬ気がかりは、ご神罰しんばつけいせられている忍剣にんけんの身の上——。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
敵は全く進退きわまり、そしてあと四、五分のうちに殲滅されてしまうものと思われ、キンギン国軍は、やっと愁眉しゅうびをひらいたのであった。
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
きり開かれたそのみちには、あかるい光りがあふれていたのだ。何よりも無邪気に、すッと愁眉しゅうびをひらいたのはおんなどもであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
仕事にかかる瞬間から終るまでの間、去ることのない愁眉しゅうびが一時に開いて行くような、静かな表情の変化が陽灼ひやけた顔に窺えるだけなのである。
が、別に殿中では、何も粗匇そそうをしなかったらしい。宇左衛門は、始めて、愁眉しゅうびを開く事が出来るような心もちがした。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
愁眉しゅうびを開いたかのごとくに群集の中から叫んだ声が挙がったかと思われるや同時に、いかさま仲之町通りを大門口の方から悠然とふところ手をやって
そこでも同じくらい待ち、第三の取次ぎが第三接待へ導いた。こうして第五の接待の間へ通されたとき、前田老職がようやく愁眉しゅうびをひらいたという顔で
半之助祝言 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
上陸が出来るか出来んかと皆固唾かたずを呑んで待って居たがこの日は上陸が出来ずに暮れてしもうた。翌日の十時頃に上陸の事にきまったので一同は愁眉しゅうびを開いた。
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
「あれ、あんなことをいっていらっしゃるよ。」と嬉しそうに莞爾にっこりしたが、これで愁眉しゅうびが開けたと見える。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
幸いにお君の病気は大したことはなく、四日ばかりするうちにすっかりなおってしまい、お君はやっと愁眉しゅうびを開いていると、そこへ甲府から便りがありました。
もし赦免しゃめんに預らば、積善の余慶、長く家門に及び、栄華は長く子孫に伝わらんものと思い候。さすれば、義経年来の愁眉しゅうびを開き、一生の安穏を得るものと思い候。
終日佛間ぶつまにいて、冥想めいそうふけるとか、看経かんきんするとか、何処かの貴い大徳だいとこを招いて佛法の講義を聴聞ちょうもんするとか、云うような日が多くなったので、乳人や女房たちは愁眉しゅうびを開いて
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
相談の上、妾ず帰京して彼の決行果して成就じょうじゅするや否やを気遣いしに、一カ月を経て親族会議の結果嫡男哲郎を祖父母の膝下しっかに留め、彼は出京して夫婦始めて、愁眉しゅうびを開き
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
中川もたちま愁眉しゅうびを開き「それは全く御尽力の結果だね、さぞお骨が折れたろう」小山
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
三条の宮の人たちも愁眉しゅうびを開いた。
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
大佐はようやく愁眉しゅうびを開いて
一瞬ぱっと愁眉しゅうびをひらいた。
HUMAN LOST (新字新仮名) / 太宰治(著)
直義は愁眉しゅうびをひらいた。どうやら、これまでのことは、名越軍も六波羅でも、まったく感知していないらしい。天のたすけぞと思われた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これを聞いた、山崎、岩田、上木の三人は、また、愁眉しゅうびをあつめて評議した。こうなっては、いよいよ上木の献策通り、真鍮の煙管を造らせるよりほかに、仕方がない。
煙管 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
莞爾かんじとしてみをのせると、かちりと強く金打きんちょうして見せましたものでしたから、たのもしげな右門のその誓約にようやくお小姓は愁眉しゅうびを開いて、事の子細を打ち明けました。
これをもってせば欣弥母子おやこが半年の扶持に足るべしとて、渠はひそみたりし愁眉しゅうびを開けり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
愁眉しゅうびをひらいたのである。思わず頭をげてしまった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
この口上を聞いて、俊成卿は愁眉しゅうびを開いた。
私はいつもこのテヽンで愁眉しゅうびを開く。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
愁眉しゅうびをひらいて、人々は、上水の川尻へ眼をやった。大曲おおまがりの方から、川端を、悠長ゆうちょうに練ってくる一列の提灯とかごとが、それらしく見える。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それより照子、鬱々うつうつとしてたのしまず、愁眉しゅうび容易に開けざるにぞ、在原夫人はことばを尽して、すかしても、慰めても頭痛がするとて額をおさえ、弱果てて見えたまえば、見るに見かねて侍女等こしもとども
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と初めて愁眉しゅうびを開いてくれた。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
願いにやった使者は、途中からお呼び戻しになった。塩税の未納金やらその他のお取立てが、案外に順調に集まるので、この分ならばと、大石殿も、愁眉しゅうびをひらいて居らっしゃる
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかるに突然珍客ありて、告ぐるに金時計を還さん事をもってせり。へいげんは快然愁眉しゅうびを開きしが、省みれはうちやましきところ無きにあらず。もし彼にして懸賞金百円を請求せんか。
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
福知山方の面々は俄かに喜色をみなぎらせ思わず浮腰になって伸び上がる者もあり、殊に正面の松平忠房は、初めて愁眉しゅうびを開いた顔を傍らの正木作左衛門に向けて意味深長に北叟ほくそ笑んだのであった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「うむ。そうか」とのみで、彼の愁眉しゅうびはひらかれなかった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
愁眉しゅうびをひらいた彼の臣下は、同時に、蔡瑁を憎み憤った。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、やや愁眉しゅうびをひらいて云った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宋江、愁眉しゅうびをひらき。病尉遅びょううっち
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、皆は愁眉しゅうびをひらいた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)