後脚あとあし)” の例文
白い石が無遠慮にこう言うと、驢馬は長い耳でそれを立聞きして、癪にさえたらしく、いきなり後脚あとあしを上げて、そこらを蹴飛ばしました。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
舌で舐めたり後脚あとあしで掻いたりする気持ちはおおよそ想像してみることができても尻尾の振りごこちや曲げごこちは夢想することもできない。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼は極力否定しているが、わたしの想像するところでは、彼の見たのは若い熊が後脚あとあしで立っていた、その姿に相違あるまい。
大野順平は腰をかがめて、その後脚あとあしをつかみあげた。そのとき斃れている鹿の眼がしわりとまたたいたのである。玉目三郎は思わず一足うしろに退った。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
其處そこへあの、めす黒猫くろねこが、横合よこあひから、フイとりかゝつて、おきみのかいたうた懷紙ふところがみを、後脚あとあしつてて前脚まへあしふたつで、咽喉のどかゝむやうにした。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼奴きゃつ、どうするかと息をひそめてうかがつてゐると、かれは長き尾を地にき二本の後脚あとあしもっ矗然すっくと立つたまゝ、さながら人のやうに歩んで行く、足下あしもと中々なかなかたしかだ。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
烏やかささぎが下りて来ると、彼等は身をちぢめて後脚あとあしで地上に強く弾みを掛け、ポンと一つ跳ね上る有様は、さながら一団の雪が舞い上ったようで、烏や鵲はびっくりして逃げ出す。
兎と猫 (新字新仮名) / 魯迅(著)
と、狼が走るのを止めて、葉之助の周囲まわりへ集まって来た。そうして揃って後脚あとあしで坐り、前脚の間へ鼻面を突っ込み、上眼を使って葉之助を見た。それは親し気な様子であった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
跳ね立ちて今飛ばむずる雄の馬の後脚あとあしの据わりゆゆしかるかも
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
いきも激しく苛立ちのぼせ、後脚あとあし跳ねかし牡馬の如く
左衛門尉はかう言ひ捨てて馬に一むちあてた。馬は自分で偉い者の手本を見せるやうに、後脚あとあしで砂を蹴つて飛んだ。
たがひに——おたがひ失禮しつれいだけれど、破屋あばらや天井てんじやうてくるねずみは、しのぶにしろ、れるにしろ、おとひきずつてまはるのであるが、こゝのは——つて後脚あとあし歩行あるくらしい。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
をかしとよ、早や見えずとよ、後脚あとあしはねてまた水くぐる。
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
天守てんしゆいしずゑつち後脚あとあしんで、前脚まへあしうへげて、たかむねいだくやうにけたとおもふと、一階目いつかいめ廻廊くわいらうめいた板敷いたじきへ、ぬい、とのぼつて外周囲そとまはりをぐるりと歩行あるいた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この男の考へでは、馬が後脚あとあしで人を蹴る外には、非紳士的な態度といふのはないといふのだ。
ちんちろりんは随分な嫉妬やきもち焼きで雌がよその雄と談話はなしでもしてゐようものなら、いきなり相手を後脚あとあしで蹴飛ばすさうだが、薩摩者もこの点ではちんちろりんに劣らぬ道徳家である。
栗鼠りすが(註、この篇の談者、小県凡杯は、兎のように、と云ったのであるが、兎は私が贔屓ひいきだから、栗鼠にしておく。)後脚あとあしで飛ぶごとく、嬉しそうに、ねつつ飛込んで、腰を掛けても、その
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)