形状かたち)” の例文
やゝ老いた顔の肉はいたく落ちて、鋭い眼の光の中に無限の悲しい影を宿しながら、じつと今打ちにかゝらうとした若者の顔をにらんだ形状かたち
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
自然石じねんせき形状かたち乱れたるを幅一間に行儀よく並べて、錯落さくらくと平らかに敷き詰めたるこみちに落つる足音は、甲野こうのさんと宗近むねちか君の足音だけである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なだれはあへて山にもかぎらず、形状かたちみねをなしたる処は時としてなだるゝ事あり。文化のはじめ思川村おもひがはむら天昌寺てんしやうじ住職じゆうしよく執中和尚しつちゆうをせう牧之ぼくし伯父をぢ也。
ところが、その歩行線を見ると、形状かたちの大きさに比べると、非常に歩幅が狭く、しかも全体が、電光形ジグザグに運ばれているのだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
見よ/\我が足下の此磧は一〻蓮華の形状かたちをなし居る世に珍しき磧なり、我が眼の前の此砂は一〻五金の光を有てる比類たぐひ稀なる砂なるぞと説き示せば
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
屠殺とさつに用いるのだそうだ。肉屋の亭主は沈着おちついた調子で、以前には太いくぎ形状かたちしたのを用いたが、この管状の方が丈夫で、打撃に力が入ることなどを私に説明ときあかした。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
うらなふに此艸を盌水に投じ葉開けば其人無事也しぼめば人しといふとぞ又日光山の万年艸は一名万年杉また苔杉などいひ漢名玉柏一名玉遂また千年柏といひて形状かたちと異なり混ずべからず
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
双眼鏡をとってかなたを望めば、敵の中央を堅めし定遠鎮遠はまっ先にぬきんでて、横陣やや鈍角をなし、距離ようやく縮まりて二艦の形状かたちは遠目にも次第にあざやかになり来たりぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
茄子型なすがたをしたすばらしい大真珠であったが、その辺の宝石商などは滅多に持合せていない逸品で、光沢つやといい形状かたちと云い、一目見たら忘れられない様な宝石であったから、朱凌谿はこれを見て
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
酷烈酸鼻さんびをきわめた流血の歴史よりかも、すでにそれ以前行われていて、しかものあたり、遺骸の形状かたちにもそれとうなずかれる恐怖悲劇の方が
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
見よ見よわが足下あしもとのこのこいしは一々蓮華れんげ形状かたちをなし居る世に珍しき磧なり、わが眼の前のこの砂は一々五金の光をもてる比類たぐいまれなる砂なるぞと説き示せば
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
百樹もゝき曰、くだんるに常にある亀とは形状かたち少しくことなるやうなり。依てあんずるに、本草ほんざう所謂いはゆる秦亀しんき一名筮亀ぜいきあるひは山亀といひ、俗に石亀いしがめといふ物にやあらん。
はらのなかにちいさなしわが無数に出来できて、其皺そのしわが絶えず、相互さうごの位地と、形状かたちとをへて、一面にうごいてゐる様な気持がする。代助は時々とき/″\斯う云ふ情調の支配を受ける事がある。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
丸葉と、いくらかとがった葉とあって、二株の花の形状かたちも色合もやや異っていたが、それが咲き盛る頃には驚くばかり美しかった。狭い町の中で岸本の書斎を飾ったのもその萩であった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
百樹もゝき曰、くだんるに常にある亀とは形状かたち少しくことなるやうなり。依てあんずるに、本草ほんざう所謂いはゆる秦亀しんき一名筮亀ぜいきあるひは山亀といひ、俗に石亀いしがめといふ物にやあらん。
形状かたちほかにおのずからいやしからぬ様あらわれて、その親切なる言葉、そもや女子おなごうれしからぬ事か。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
腹のなかに小さなしわが無数に出来て、その皺が絶えず、相互の位地と、形状かたちとを変えて、一面にうごいている様な気持がする。代助は時々こう云う情調の支配を受ける事がある。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
した無残な烙印やきいんには、たしか索溝の形状かたちと、背馳はいちするものがあるように思われるんだが
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
浅間は大きな爆発の為に崩されたような山で、今いう牙歯山ぎっぱやま往時むかしの噴火口の跡であったろうとは、誰しも思うことだ。何か山の形状かたちに一定した面白味でもあるかと思って来る旅人は、大概失望する。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
されど毒草どくさうなるよし見えたり。又山韭やまにらといふも同書どうしよに見ゆ、これもあさのかはりにもすべきもの也。にらをいらといふにや。草の形状かたちきかざりしゆゑさだめがたし。
それにいちいち点頭うなずきながら、法水は屍体の不自然な形状かたちを凝然と見下している。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
与次郎の言うことだから、三四郎はむろんあてにはしない。しかしこのさいだから気をつけて煙の形状かたちをながめていた。すると与次郎の言ったような判然たる煙はちっとも出て来ない。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もしくは詩的感興がある。尤も恐るべきはあなさきうづである。うづると、大変にしかられる。与次郎の云ふ事だから、三四郎は無論あてにはしない。然し此際だから気をけてけむりの形状かたちを眺めてゐた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)