川原かわら)” の例文
かれは、それによろこびをかんじながらも、ここへは、いつまたこられるだろうかとおもうと、なんとなく、川原かわらにわかれるのが、おしまれたのでした。
雲のわくころ (新字新仮名) / 小川未明(著)
拾玉しゅうぎょく集』に「すごきかな、加茂かも川原かわらの河風にみのげ乱れてさぎたてるめり」。為家ためいえの歌に「ゐる鷺のおのが蓑毛も片よりに、岸の柳を春風ぞふく」
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
都会ではぎっしり詰まった満員電車の乗客でも川原かわらの石ころどうしのように黙ってめいめいが自分の事を考えている。
田園雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そのとき、背の皇子のあまりに歎かせらるる有様を見て……あれはその……なんと言つたかな……さう、川原かわらふひとまろ……その満が奉つた歌だつた。
春泥:『白鳳』第一部 (新字旧仮名) / 神西清(著)
二杯たべて出がけにもう一本正宗まさむねびん熱燗あつかんにつけさせたのを手にげながら饂飩屋の亭主がおしえてくれた渡し場へ出る道というのを川原かわらの方へ下って行った。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一方にはやす川原かわらあめ長田おさだという類の、地名らしきものも生まれているが、こちらは山か空か、どの辺にあるのかも考えられず、そうしてまた語義も明らかでない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
やぶの中のおじいさんのそばにおはかがあるよ。川原かわらから、おとうさんが、このくらいのまるい石をひろってきて立ててある、それがアキコのお墓さ、まだ子どもだもんね。
うた時計 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
そしてうちには帰らず、直ぐ田甫たんぼへ出た。止めようと思うても涙が止まらない。口惜くやしいやら情けないやら、前後夢中で川の岸まで走って、川原かわらの草の中に打倒ぶったおれてしまった。
画の悲み (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
徳川家康のエライところはたくさんありますけれども、諸君のご承知のとおり彼が子供のときに川原かわらへ行ってみたところが、子供の二群がいくさをしておった、石撃いしぶちをしておった。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ひめのおうちは、狹井川さいがわという川のそばにありました。そこの川原かわらには、やまゆりがどっさり咲いていました。天皇は、媛のおうちへいらしって、ひと晩とまってお帰りになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
其の頃は開けませんから、湯場も鶴の湯と川原かわらの湯と二ヶ所で、宿屋もあります。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
浅間せんげんやしろで、かまで甘酒を売る茶店へ休んだ時、鳩と一所いっしょ日南ひなたぼっこをする婆さんに、阿部川あべかわ川原かわらで、桜の頃は土地の人が、毛氈に重詰じゅうづめもので、花の酒宴さかもりをする、と言うのを聞いた。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
誰も居ない川原かわらです。種々と妻を詰問しましたが、如何どうしても実をきません。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ばんになると、えのきのしたに、縁台えんだいして、三にんは、こしをかけて、すずみながら、おじさんから、田舎いなかりにいったはなしや、また、よる川原かわらをたいて、さかなせて
子供の床屋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
二股ふたまたの道を右へ取り、六田の淀の橋の上へ来て、吉野川の川原かわら景色けしきを眺めたものである。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それがかどつじ川原かわら等に、別に臨時の台所だいどころを特設した理由であり、子どもはまた触穢しょくえいみに対して成人ほどに敏感でないと考えられて、特に接待掛りの任に当ったものと思われる。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
温泉は川岸から湧出わきだしまして、石垣で積上げてある所を惣湯そうゆと申しますが、追々ひらけて、当今は河中かわなかの湯、河下かわしもの湯、儘根まゝねの湯、しもの湯、南岸みなみぎしの湯、川原かわらの湯、薬師やくしの湯と七湯しちとうに分れて
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
つぎに天皇は、むかしお兄上とお二人で大和やまとからおげになる途中で、おべんとうをうばい取った、あのししかいの老人をおさがし出しになって大和やまと飛鳥川あすかがわ川原かわら死刑しけいにお行ないになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「さあ、このへんから、川原かわらへはいるのだが、いしころがあってあぶないから、よくをつけておいで。」と、おじさんは、さきになって、ささやぶのあいだをわけてすすみました。
雲のわくころ (新字新仮名) / 小川未明(著)