巌石がんせき)” の例文
旧字:巖石
巌石がんせき、がらがらの細谿川ほそたにがわが、寒さに水涸みずがれして、さらさらさらさら、……ああ、ちょうど、あの音、……洗面所の、あの音でございます。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いままで登ってきた山は山の一段であって、更に巌石がんせきが草原の海に、処々しょしょ島のように表われて居る山腹を攀じて、上の峰まで行かねばならぬ。
武甲山に登る (新字新仮名) / 河井酔茗(著)
一貫目位の巌石がんせきがガンと一つ頭へあたろうものなら、たちまち眼下の谷底へ跳ね飛ばされ、微塵みじんとなって成仏する事受合うけあいだ。ああ南無阿彌陀仏南無阿彌陀仏。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
国分山こくぶやまをうしろにし、湖水のながめも前にひらけていまして、大きな巌石がんせきの間に名高いお寺が建ててあるのです。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
げん支吾しごあらんには、巌石がんせき鶏卵けいらんを圧するの勢を以て臨まんとするの状をし、昺貴へいきの軍の殺気のはしるところ、をば放って府内に達するものすら有りたり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ちょうばかりも登ると、屏風びょうぶを立てたような巌石がんせきみちを挟んでそびえている処へ出た。一番前を歩いていた李張は、夢のなかの秀才が云った処はここだなと思った。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ほらは三縦列に成つて歩く事の出来る広さで、上は普通の家の天井よりも高く、其れが一面御影みかげ質の巌石がんせきおほはれて居るのを見ると巴里パリイの地盤の堅牢な事が想はれる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
その間にほかの若者たちは、河原かわらに散在する巌石がんせきを持上げ合う遊戯ゆうぎを始めていた。岩は牛ほどの大きさのも、羊ほどの小ささのも、いろいろ陽炎かげろうの中に転がっていた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
鬱蒼うっそうたる森林地帯を通り抜けると、巌石がんせき峨々ががとして半天にそびゆる崑崙山脈にじ登って、お茶の樹を探しまわるのですが、崑崙山脈一帯に叢生そうせいするお茶の樹というのは
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
昨日に比してすくなからず減じた水量のために河中かちゅう巌石がんせきという巌石は、ことごとく高く高くせりあがって、重積した横の、ななめ斧劈ふへきも露わに千状万態ばんたいの奇景を眼前に聳立しょうりつせしめて
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
瑞龍山ずいりゅうざん一帯、巌石がんせき峨々ががたる山なので、清水のわき出ている場所は極めて少ない。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なお追掛けて出ると、は如何に、拙者がばかされていたのじゃ、茅屋あばらやがあったと思う処が、矢張やっぱり野原で、片方かた/\はどうどうと渓間たにまに水の流れる音が聞え、片方は恐ろしい巌石がんせき峨々がゞたる山にして
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
巌角いわ突出つきい巌石がんせきの砕けて一面にころばっている坂道は、草鞋わらじの底を破って足の裏の痛きことおびただしく、折から雲霧は山腹を包んで、雨はザアザア降って来れば
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
山の中程には大きな巌石がんせき屏風びょうぶを立てたようにそびえた処があった。宣揚はそこまでおりて来ると疲労くたびれて苦しくなって来たので、みちぶちのいわに腰をかけて休んでいた。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そのあかりで、早や出端でばなに立って出かかった先生方、左右の形は、天幕がそのままの巌石がんせきで、言わねえ事じゃあねえ、青くまた朱に刻みつけた、怪しい山神さんじんに、そっくりだね。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
早速さつそく幾本かの蝋燭が各室にけられて大洞窟の闇を破つた。客室サロンも寝室も倉も炊事すべて自然の巌石がんせきくり抜き、それしきつた壁も附属した暖炉や棚などもまつた据附すゑつけ巌石がんせきで出来て居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
赤土の道では油断をすると足をすくわれて一、二回滑りおち巌石がんせきの道ではつまづいて生爪を剥がす者などもある。その上、あぶの押寄せる事はなはだしく、手や首筋を刺されて閉口閉口。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
どうか私の父にって、まず私の死骸を改葬したうえで、淫婦いんぷの始末をしてください、私の死骸は山の中程の、巌石がんせきそびえている処へ往ってくだされば、すぐ判ります、淫婦を白状さすには
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)