寵愛ちようあい)” の例文
「親分、——お紋に氣をつけて下さい、あの人は若樣の御寵愛ちようあいを受けて居りました。そして、——當屋敷には、それを怨む者があつたのです」
その祖父はかつて孫を此上なく寵愛ちようあいして、およそ祖父の孫に対する愛は、遺憾ゐかんなく尽して居つたにもかゝはらず、その死の床にははべつて居るものが一人も無いとは!
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
たかとよびて夫婦の寵愛ちようあいかぎりなく讀書よみかき勿論もちろん絲竹いとたけの道より茶湯ちやのゆ活花等いけばなとうに至るまで師をえらみて習はせしに取分とりわけ書を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
元二げんじじゆんさかづき𢌞まはつてとき自分じぶん國許くにもとことりて仔細しさいあつて、しのわかものが庄屋しやうや屋敷やしき奉公ほうこうして、つま不義ふぎをする、なかだちは、をんな寵愛ちようあいねこ
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
国詰でありながら召されてしばしば江戸へ出府するくらい、藩主美濃守信邦みののかみのぶくににも寵愛ちようあいされている。
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
殿様の寵愛ちようあいを奪はれたからといつて、相手に斬りつけたのは兄さんの間違ひではなかつたか。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
自分は王侯わうこう寵愛ちようあいに依ツて馬車に乗ツてゐるちんよりも、むしろ自由に野をのさばツて歩くむくいぬになりたい。自分は自分の力によツて自分の存立を保證する。自體自分には親が無い。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
子爵ししやく寵愛ちようあいよりもふかく、兩親おやなきいもと大切たいせつかぎりなければ、きがうへにもきをらみて、何某家なにがしけ奧方おくがたともをつけぬ十六の春風はるかぜ無慘むざん玉簾たますだれふきとほして此初櫻このはつざくらちりかヽりしそで
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
父母は姫君を寵愛ちようあいした。しかしやはり昔風に、進んでは誰にもめあはせなかつた。誰か云ひ寄る人があればと、心待ちに待つばかりだつた。姫君も父母の教へ通り、つつましい朝夕を送つてゐた。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
文藏と呼て夫婦の寵愛ちようあいいふばかりなくてふよ花よとそだてけるにはや文藏も三歳になりしころ父の文右衞門不※ふとかぜの心地にて打臥うちふしけるが次第に病氣差重さしおも種々いろ/\養生やうじやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
相澤半之丞、弓の折を取つて立上がると、三年越寵愛ちようあいした自分の妾の肉塊しゝむらを、ピシリ、ピシリと叩きます。
子の無い処の孫であるから、祖父祖母の寵愛ちようあい一方ひとかたではなく、一にも孫、二にも孫と畳にも置かぬほどにちやほやして、その寵愛する様は、他所目よそめにも可笑をかしい程であつたといふ。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
も久八と附て夫婦の寵愛ちようあいあさからず養育しけるに一日々々と智慧ちゑつくしたが他所よその兒にまさりて利發りはつなるによりすゑ頼母敷たのもしき小兒せうになりといつくしみける中月立年暮て早くも七歳の春を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
二三日前町内の女隱居が『寵愛ちようあいの猫の子が殺されたから、下手人を搜して敵を討つて下さい』
寵愛ちようあい度を越しては居ても、死んで仕舞つては、葬式をしてやる氣も無かつたのでせう。