あね)” の例文
あねご、あいつは関東方で」「そうかい、それじゃア引っこ抜いてやろう」「おっとおっと今度はいけない、あのお侍さんは京師けいし方で」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
人形としんねこ? ——いかにもお杉のあねさんは酒肴しゅこうぜんを前に、からだをくの字にして人形に寄り添って、しきりにながしめを送りながら口説いている。
女はギクリとして障子の中をのぞいた、そこには、あねさんかぶりの後むきが、小意気な半纏はんてんを着た朝の姿で、たすきをかけて、長火鉢ながしばち艶拭つやぶきをしていた。
ガラッ八はここへ飛込むときチラリと目に留まった、あねさんかぶりの甲斐甲斐しいお静の姿を思い出したのです。
あねさん、どうしただね!」教父クームは家のなかへ入るなり声をかけた。「お前さんまだおこりをふるつてるだかね?」
葭簀よしずがこいの粗末な店ばかりで、ほんの一時の足休めに過ぎないのであるが、若い女たちが白い手拭をあねさんかぶりにして、さざえを店先で焼いている姿は
恨みの蠑螺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
杭州城内過軍橋かぐんきょう黒珠巷こくじゅこうという処に許宣きょせんという若い男があったが、それは小さい時に両親をくして、あねの縁づいている李仁りじんという官吏のもとに世話になっていた。
雷峯塔物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
新参ながら押しも押されもせぬあねさん株になって、立派に看板があげられるのよ、そうして、あなたを長火鉢の前へちゃあんと坐らせて、よろこばして上げるわ。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
作「手前てめえの懐を改めて見よう、己だって手伝って、あねさんを斬ろうとする與助を己が蹴殺して、罪を造っているんだ、裸体はだかになって見せろやい、出せってばやい」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
意見を貰ったあねさんに、せめて、見て貰う駒形の、しがねえ姿の、横綱の土俵入りでござんす。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
そうなると分けの染福より丸の晴子を庇護かばうのが、あね芸者の気持であり、春次も染福を抑え
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
足を引摺ひきずるようにしてそっと紋床へ這戻り、お懶惰なまけさんの親方が、内を明けて居ないのを勿怪もっけさいわい、お婆さんは就寝およってなり、あねさんは優しいから、いたわってくれた焼酎しょうちゅうなすって
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
手ぬぐいであねさまかぶりをして、たすきをかけて、せっせと一心にふいておりました。
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
と、観音開きの所から声をかけながら這入はいって行くと、姉は二階で、ただでさえ入梅のじめじめする日に、かび臭いにおいの中にうずくまりながら、あねさんかぶりをして一生懸命片附け物に熱中していた。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
法木ほうぎ島船しまぶね、小船、浦の真船まふね出鼻でばなを見れば、あねいもとも皆乗り出して、をおし押し、にまきの先に、おせなおせなとさぶかぜ通れば、凪もいし、かつまを通れば、せじた宵烏賊、せがらし宵烏賊
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「玉井のあねさん」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
と、金兵衛はお粂の前へ、ピョコリと一つお辞儀をしたが、「あねご済みません、あやまります。実は道草を食いましてね」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「まあ若旦那、なんてまあ、若旦那」あねさんは夢のような贈り物に恍惚となり両手に胸を抱いて身もだえをした
「相吉さんと弁次郎さんが、夜更けまでベチャベチャ話しているんで、あねさんに小言を言われていました」
杭州城内過軍橋かぐんきょう黒珠巷こくじゅこうと云う所に許宣きょせんというわかい男があったが、それは小さい時に両親を歿くして、あねの縁づいている李仁りじんと云う官吏の許に世話になっていた。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あねさまのはいっている手箱も、書きものの手箱も、折角、かくして、ぽつぽつと溜めた本類も、みんなしてしまわれたりしたが、そんなにしても、妹たちも好きだったので
頼んでおいた若いかせぎ人が来て、道太の陣取っている離れの方から手をつけはじめて、午後には下の部屋へ及んできた。お絹たちは単衣のうわりを著て、手拭をあねさんかぶりにして働いていた。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
こりゃア誠にどうもあねさんでごぜえやすか、碌々御挨拶ごええさつも致しやせんで、へえ昨夜ゆうべくれえ酔ってやしたから、何う云うわけで此方こちらへ泊ったか分りやせん、目が醒めて見るときまりが悪くってね
「お誓さん、お誓さん。姉さん、あねご、大姐ご。」
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それじゃアあねごの思惑通り、こっちへさらわれて来たんだな」腕に蛭子えびすの刺青のある小頭の蛭子三郎次である。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
許宣は夜になってあねの許へかえって、結婚の相談をしようと思ったが、人生の一大事のことを、世間ばなしのように話したくないので、その晩は何も云わずに寝て
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
赤蜻蛉あかとんぼがわずかばかり見える空を、スイスイと飛び交わす時分、女房のお静はもう晩飯の仕度に取りかかった様子で、あねさんかぶりにした白い手拭が、お勝手から井戸端の間を
鏡台わきの手拭かけにあった白地に市川という字が手拭一ぱいの熨斗のしの模様になって、莚升えんしょうと書いてある市川左団次の配り手拭をとらせると、上手にあねさんかぶりにして、すっと立上ると
「わかったよお杉のあねさん、だがいいのかい」
やアあねごか! お粂の姐ごか! おッ山県先生も! 有難い有難い、助かりましたかい! ……さあ野郎ども
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お静はあねさんかぶりの手拭をって、れた手を拭き拭き一本の手紙を持って来ました。
「私もあねの家に世話になって、日間ひるまは親類の薬舗へ勤めておりますので、暇をもらって、やっぱり雨のことは考えずに、来たものですから、ひどい目に逢いました、皆、今日は困ったでしょうよ」
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
種々の透しを切り込んで屏風をこしらえて、あねさまを飾りはじめる。
あねごのせっかくのお言葉ですが、あっしたちゃア姐ごに頼まれたんではなく……」
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
土竈へっついの下をきつけていたお静が、あねさんかぶりを取って顔を出します。
「やアいい男のお武家さんだ、弁天のあねごが惚れなければいいが」
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)