女主人おんなあるじ)” の例文
かれとらえられていえ引返ひきかえされたが、女主人おんなあるじ医師いしゃびにられ、ドクトル、アンドレイ、エヒミチはかれ診察しんさつしたのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
私は、その女の勤めていた先の女主人おんなあるじに会うために、上京かみぎょうの方から十一時過ぎになって、花見小路はなみこうじのその家に出かけて往った。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
奥の一と間には、線香の匂を棚引かせて、番頭の弥八が妹娘のお信や、下女のお六に指図をしながら、女主人おんなあるじのお兼の新仏姿を調えて居りました。
女主人おんなあるじは抽斎の四女くがで、長唄の師匠杵屋勝久きねやかつひささんがこれである。既にしたる如く、大正五年には七十歳になった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この女主人おんなあるじ——殺害された鷺江さぎえゆき女という者は、いつ頃から当家へ移って参ったのか、それからの事情を細かに話してもらいたいものだが、どうじゃ
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……そう、それじゃ、いよいよ私の家じゃありません、私の家には、今お取次した、婆やより他に、婢を置いたことがありません」と、女主人おんなあるじは云いきった。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
暖簾のれんに焼鳥金兵衛としるした家で、その女主人おんなあるじは二十余年のむかし、わたくしが宗十郎町の芸者家に起臥していた頃、向側の家にいた名妓なにがしというものである。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これは此の春頃から、其まで人の出入ではいりさへ余りなかつたかみの薬屋がかたへ、一にんの美少年が来て一所いっしょに居る、女主人おんなあるじおいださうで、信濃しなののもの、継母ままははいじめられて家出をして
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一人娘のために住居すまいの外見などにもみすぼらしさがないようにと、りっぱな体裁を保って暮らしていたのであるが、子を失った女主人おんなあるじ無明むみょうの日が続くようになってからは
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
写真屋も商売となると技術よりは客扱いが肝腎だから、女の方がかえって愛嬌あいきょうがあって客受けがイイという話、ここの写真屋の女主人おんなあるじというは後家ごけさんだそうだが相応に儲かるというはなし
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
私の記憶に残っている女主人おんなあるじのおてつは、もう四十位であったらしい。眉を落して歯を染めた小作りの年増としまであった。むこを貰ったがまた別れたとかいうことで、十一、二の男のを持っていた。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
鴻の巣の宿屋では女主人おんなあるじが清藏の帰りの遅いのを心配いたして
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お后、女主人おんなあるじの昔からの席にまたおつきになるからは
が、それもこれもじきかれ疲労つからしてしまう。かれはそこでふとおもいた、自分じぶん位置いち安全あんぜんはかるには、女主人おんなあるじ穴蔵あなぐらかくれているのが上策じょうさくと。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
鈴木の女主人おんなあるじは次第に優にしたしんで、立派な、気さくな檀那だんなだといって褒めた。当時の優は黒い鬚髯しゅぜんを蓄えていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
婆やらしい年とった女が取次に出て、そのあとから二十五六に見える円髷まるまげ女主人おんなあるじが出て来た。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それにこの間の夜松井の女主人おんなあるじのところへたずねて往って会った時の話にも、こんど病気でいよいよ廃業する時にももう女の身に付いた借金というほどのものもなかったというし
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
小女が階下したあるじに告げたのであろう、やがて、その女主人おんなあるじがあいさつに見えた。三十ぐらいな肌目きめのよい美人である。武蔵がさっそく不審をただすと、その美人が笑って話すにはこうであった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
五十がらみの恐ろしい金棒曳かなぼうひき、そのうえ癇性かんしょう眼敏めざといのを自慢にしている女ですから、この女主人おんなあるじに知れないように、二階から脱け出すことは、猫のような身軽さで、物干から飛降りない限りは
霧の濃くおりた朝、帰りをそそのかされて、むそうなふうで歎息たんそくをしながら源氏が出て行くのを、貴女の女房の中将が格子こうしを一間だけ上げて、女主人おんなあるじに見送らせるために几帳きちょうを横へ引いてしまった。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
今、どこの路地で無頼漢が神祇じんぎの礼を交していたとか、或は向の川岸で怪し気な女にそでかれたとか、かつてどこそこの店にいた女給が今はどこそこの女主人おんなあるじになっているとか云うたぐいのはなしである。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
家主いえぬし女主人おんなあるじところ見知みしらぬひとさえすればそれもになる。もん呼鈴よびりんたび惴々びくびくしては顫上ふるえあがる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
なぜというに、保は鈴木の女主人おんなあるじに月二両の下宿代を払う約束をしていながら、学資の方が足らぬがちなので、まだ一度も払わずにいた。そこへにわかに三人の客を迎えなくてはならなくなった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「伜って、どなたですか」と、女主人おんなあるじは不審そうに云った。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
私は何となく女主人おんなあるじの顔から眼をそらしながら
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)