墓原はかはら)” の例文
墓原はかはらへ出たのは十二時すぎ、それから、ああして、ああして、と此処ここまであいだのことを心に繰返して、大分だいぶんの時間がったから。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただ眼は大勢おおぜいの見物の向うの、天蓋てんがいのように枝を張った、墓原はかはらの松を眺めている。その内にもう役人の一人は、おぎんの縄目をゆるすように命じた。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
夜はけたり。雪は霙と変わり霙は雪となり降りつ止みつす。灘山なだやまを月はなれて雲の海に光を包めば、古城市はさながら乾ける墓原はかはらのごとし。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
振向いて見たがんにも居ないから、墓原はかはらへ立帰って見たが、墓には何も変りがない、はて何じゃろうと段々探すと、山の根方の藪ん中に大きな薯蕷やまいもが一本あったのじゃ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
侍童 (傍を向きて)こんな墓原はかはら一人ひとりってゐるのはこはらしい、が、ま、やってよう。
星明りに透かしてみると墓原はかはららしい処は一面の竹籔となって、数百年の大銀杏いちょうが真黒い巨人のように切れ切れの天の河を押し上げ、本堂の屋根に生えたペンペン草、紫苑のたぐいが
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
眞面目まじめに色めた墓原はかはらを過る時
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
墓原はかはらたのは十二時過じすぎ、それから、あゝして、あゝして、と此處こゝまであひだのことをこゝろ繰返くりかへして、大分だいぶん時間じかんつたから。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
じょあん孫七まごしちを始め三人の宗徒しゅうとは、村はずれの刑場けいじょうへ引かれる途中も、恐れる気色けしきは見えなかった。刑場はちょうど墓原はかはらに隣った、石ころの多い空き地である。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一度江戸へ立帰らんと思い立ち、日数ひかずを経て、八月三日江戸表へちゃくいたし、ず谷中の三崎村なる新幡随院へ参り、主人の墓へ香花こうげ手向たむけ水を上げ、墓原はかはらの前に両手を突きまして
松原の中に一町四方ばかりの墓原はかはらがある。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
寂しい墓原はかはらの松のかげに、末は「いんへるの」にちるのも知らず、はかない極楽を夢見ている。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
たたいて、開けておくれと言えば、何の造作ぞうさはないのだけれども、せ、とめるのをかないで、墓原はかはらを夜中に徘徊はいかいするのはいい心持こころもちのものだと、二ツ三ツ言争いいあらそってた、いまのさき
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひたとつめたあせになつて、みひらき、ころされるのであらうとおもひながら、すかして蚊帳かやそとたが、墓原はかはらをさまよつて、亂橋みだればしから由井ゆゐはまをうろついてにさうになつてかへつて自分じぶん姿すがた
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
こゑけて、たゝいて、けておくれとへば、なん造作ざうさはないのだけれども、せ、とめるのをかないで、墓原はかはら夜中よなか徘徊はいくわいするのは好心持いゝこゝろもちのものだと、ふた言爭いひあらそつてた、いまのさき
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)