たった)” の例文
私達は教壇の卓子テーブルを中央へ持って来て、それを取巻いた。通学生は来なかったから、たった七名の会合だった。立花君が開会の辞を述べて
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
余が十歳の夏、父母にともなわれて舟で薩摩境さつまざかいの祖父を見舞に往った時、たった二十五里の海上を、風が悪くて天草の島に彼此十日もふながかりした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
別離苦わかれ一目ひとめてえんでたった一人ひとり駈出かけだしてさ、吹雪僵ふぶきだおれになつたんだとよ。そりやあとで分つたが、そン時あ、おいらツちがおぶつてうちまで届けて遣つた。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その晩、夫婦の取換した言葉はたったこれぎりであった。物を言わないは言うよりか、どれ程苦痛であるか知れなかった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私はお前と一つ床の中へ這入ったから、なお諦めが付かなく成ったがね、お園どん、是程思って居るのだからたった一度ぐらいは云う事を聴いてもいゝじゃアないか
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さすがにたった今方いまがた世にも恐ろしい騒動のあったあととて女供は一斉に声をひそめ姿を隠してしまったので
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
夏は肌脱ぎ冬は炬燵こたつで、気ままな暮しをする積りだった、それはできなくなった、堅くるしい屋敷住いで、気も詰ろうし可笑おかしくもなかろうが、おれのたった一つの夢なんだ、爺さん
野分 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「でも家では日に一升一合しか要りませんよ。たった二銭二厘儲ける為めに電話が借りられなくなったんじゃ詰まらないじゃありませんか?」
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
もしあれば、そんなものは片輪だ。俺の田舎いなかには何百軒という家があって、一人としてその家に結婚しないような女は居ない。一箇村の中でたった一人結婚しない女がある。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これお國、手前はお母様っかさまが義理をもって逃がして下すったのは、樋口屋の位牌へ対して済まんと道まで教えて下すったなれども、自害をなすったも手前故だ、たった一人の母親を
また一人川下かわしもの方から釣棹つりざお肩に帰って来た。やまべ釣りに往ったのだ。やがてまた一人銃を負うて帰った。人夫が立迎えて、「何だ、たった一羽か」と云う。此も山鳥。先刻さっき聞いた銃声じゅうせいはてなのであろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「それではその麓から来たんだね、たった一人。……」
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「帝大って註文ならこの上はない。それに感心な男だよ。十何年前にたった一年教えた丈けだけれど、毎年あの通り年賀に来る」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
新「済まないのは知って居るが、たった一度で諦めて是ッ切りいやらしい事は云う気遣きづかいないから」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「しかし、私が今まで遭遇であって来たことの中で、たった一つだけ叔父さんに話しましょうか」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
昨年さくねんの夏、彼は大きなかめを買った。わたり三尺、深さはたった一尺五寸の平たい甕である。これを庭の芝生のはしに据えて、毎朝水晶の様ないどの水をたして置く。大抵大きなバケツ八はいであふるゝ程になる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
広い座敷にたった一人ひとり
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
事の起因おこりたった猫一疋である。猫一疋の事で結婚しない前から離縁するなんて法はあるまい。何人だれが何と言っても森川さんが悪いに極っている。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
たった一人の妹がいよいよ着くという前の日には、彼は二階の部屋に静止じっとして待っていられなかった。旅舎を出て、町の方へ歩き廻りに行った。それほど待遠しさにえられなく成った。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「お母さん、世界の労働階級で未だ曾つてストライキをしたことのないものがたった一つありますが、御存知ですか?」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
山本さんはひとりで手をんだ。そして、すこし紅く成った。何故かというに九年も前の話だから……しかも十七ばかりに成る、妹のような娘から、たった一度の接吻キスを許されたのだから……
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「何、このピンかい? 新調じゃないよ。僕は斯ういうものには没趣味ぼつしゅみだからたった一本あるばかりで年中これさ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
私もたった一人ですし、平常ふだんは誰も訪ねて来るものが無いんです。年寄ですからねえ……ですから置いてくれというので、ああいうものを引受けて同居さしたところが忰が不服で黙ってあんなものを
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と一足違いの爺さんはたった一つ残っていた椅子を占領していた。刻限を見計らって出て来たのに踏切の辰さんがたたったのである。よくよくたされる運命だ。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
差当り、銀さんはたった一人の内弟子だった。経歴は商業学校卒業、会社員、斯ういう芸道の志望者としては珍らしい。親父さんが義太夫にって身上しんしょうつぶした。
心のアンテナ (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
九名の新入生の中、四名まで姿を見せない上に、二年生が二名総欠席をしたものだから、私達はたった五名、広いチャペルの真中にチョコナンとして坐っていた。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「揉まれるからさ。たった二年だけれど、それ丈け早く社会に出ているから、もう然う/\負けちゃいないよ」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「多々良ノ浜はあの見当になります。海上で二百十日の台風を食ったのですから十万余騎の敵も溜りません。それにしても生存者がたった三人とは酷い死亡率です」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
たった二つ違いで好い遊び相手だけれど、おはじき玉一つのことでも片一方の旋毛つむじが曲るとやかましくなる。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ところで先刻言った見舞いのことだが、俺もたった二週間だけれど、松浦さんにはあんなに御懇意に願っていたんだから、電話をかけた丈けでそのまゝ黙ってもいられない。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
昨年までは可なり好い成績が続いたから、此年の連中は油断があったのかも知れない。兎に角三十人以上も受けたのに入ったものはたった二人、その二人も一人は補欠と来ている。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「人聞きの悪いことを仰有っちゃ困ります。婿丈けです。それも一生にたった一遍です」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「こういう時には均一が特別癪に障りますね。たった二停留場で五銭ですもの」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
たった一人の息子でこんなにごうを煮やすかと思うと俺もツク/″\厭になる」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「君の考えによると、自己を欺かない仕事が世の中にたった一つあるよ」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
たった一言済まなかったと言って貰えば、それで満足するんだ」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
たった五年だけれど、校長初め過半数が代っていた。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「諸君と複数に書いてたった一人は変だね」
恩師 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「いや、たった一つある。それは商売さ」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「甲がたった五つね」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
たった一目」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)