味噌漉みそこし)” の例文
此洋服着て、味噌漉みそこし持って、村の豆腐屋に五厘のおからを買いに往った時は、流石ごうの者も髯と眼鏡めがねと洋服に対していさゝかきまりが悪かった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
フヽヽんな工合ぐあひだツて……あ彼処あそこ味噌漉みそこしげて何処どこかのやとをんなるね、あれよりはう少し色がくろくツて、ずんぐりしてえてくないよ。
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
味噌漉みそこしをさげさせまいとして、給与の品や、米を持って来て、とにかく、当座に事を欠かないようにする久助さんの骨折りを見ると、お雪ちゃんは
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
古物千歳を経て霊ありというものあるいはこれか。老婆のほかにまた一人あり。味噌漉みそこしに襤褸をまといて枕とし、横様よこさまに臥して動かざるは、あたかも死したる人のごとし。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
富者になったところで最もいきなのが、笊籮や味噌漉みそこし造りになるのである。味噌漉の底にたまれる大晦日こすにこされずこされずにこす、貧乏の方が一寸面白味が有ろう。
貧富幸不幸 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
冬や春は川底に味噌漉みそこしのこわれや、バケツの捨てたのや、陶器の欠片かけらなどが汚なく殺風景さっぷうけいに見えているのだが、このごろは水がいっぱいにみなぎり流れて、それに月の光や
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
昔は御留守居や御用商人を相手に、金の降るやうな盛り場で鳴らした相ですから、——尤も、その又大昔は、米の一升買ひから、味噌漉みそこしをさげて、おからまで買つた樣子ですが
味噌漉みそこしを前掛けの下にかくすようにして、その敷居をまたぐのを、私は見て知っていた。
庶民の食物 (新字新仮名) / 小泉信三(著)
血気の壮士らのやや倦厭けんえんの状あるを察しければ、ある時は珍しきさかなたずさえて、彼らをい、ある時は妾炊事を自らして婦女の天職をあじわい、あるいは味噌漉みそこしげて豆腐とうふ屋にかよ
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
前の晩、これを買う時に小野君が、口をきわめて、その効用を保証したかめの子だわしもある。味噌漉みそこしの代理が勤まるというなんとかざるもある。羊羹ようかんのミイラのような洗たくせっけんもある。
水の三日 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
御機嫌にさからった時は、必ず人をもってわびを入れるのが世間である。女王の逆鱗げきりんなべかま味噌漉みそこし御供物おくもつでは直せない。役にも立たぬ五重の塔をかすみのうちに腫物はれもののように安置しなければならぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
恵比須えべす様が味噌漉みそこしでテンプラをば、すくうて天井へ上げようとした。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
其の通り云いましたよ、夫婦倶稼ともかせぎをするのだから、金は使えばなくなる、お嬢様だからおまんまは炊けず、味噌漉みそこし
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
勿体なくも、朝暗いうちから廊下敷居を俯向うつむけにわせて、拭掃除ふきそうじだ。鍋釜なべかまの下をかせる、水をくませる、味噌漉みそこしで豆府を買うのも、丼で剥身むきみを買うのも皆女房の役だ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と女房は台所へ出て、まだ新しい味噌漉みそこしを手にし、外へ出でんとす。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ムヽウわたし随分ずゐぶんをとこですな。近「ウン……。梅「わたしくらゐ器量きりやうつてゐながら、家内かない鎧橋よろひばし味噌漉みそこしげてつた下婢をんなより悪いとは、ちよいとふさぎますなア。 ...
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
心配そうに煙管きせるいて、考えると見ればおかずの献立、味噌漉みそこしで豆腐を買う後姿を見るにつけ、位牌の前へお茶湯ちゃとうして、合せる手を見るにつけ、咽喉のどを切っても、胸を裂いても、唇を破っても
湯島の境内 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あれうも無いのう、品格と云い、親孝行でな、味噌漉みそこしを提げさせるのは惜しいものだ、おとっさんはヨボ/\してえるがまだ其んなに取る年でもないようだが
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
娘が惚れた男に添わせりゃ、たとい味噌漉みそこしを提げたって、玉の冠をかぶったよりは嬉しがるのを知らねえのか。はたの目からはむしろと見えても、当人には綾錦あやにしきだ。亭主は、おい、親のものじゃねえんだよ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其様そんな人に味噌漉みそこしに一ぺい、高いか知りやせんが、七文か九文に売りやんせばでかく益になり、買う人も寒さをしのげるから助かりやすゆえ、是を始めたら屹度繁昌しべいと思いやす
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
味噌漉みそこしを提げて買物けいものにもかれめえ、おらうちへ来ても女中でも一緒に附いて来て朝寐あさねをして、おひきずりで銀の股引を穿いた箸をチャラ/\云わして飯を食って居ちゃア、飯が食えねえ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)