合羽かつぱ)” の例文
そんなでも、うま荷物にもつをつけ、合羽かつぱむら馬方うまかたかれてゆきみちとほることもありました。とうさんが竹馬たけうまうへから
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ひるすこまへ迄は、ぼんやりあめながめてゐた。午飯ひるめしますや否や、護謨ごむ合羽かつぱを引き掛けて表へ出た。なか神楽坂下かぐらざかした青山あをやまうちへ電話をけた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
合羽かつぱ提燈ちやうちんを借りたにしても、大寺源十郎が鐵に襲はれたのは、車坂の中田屋の前をズツと通り過ぎてからだよ。
銭形平次捕物控:167 毒酒 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
さげ合羽かつぱの穴より鮫鞘さめざやの大脇差を顯はし水晶すゐしやう長總ながふさ珠數じゆずを首に懸し一の男來懸きかゝりしが此容子ようすを見るより物を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
雲雀ひばりより上にやすらふ峠かなと芭蕉が詠みしは此の鳥居峠なり雨は合羽かつぱすそよりまくり上げに降る此曲降きよくぶり
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
まだ夜中にもならぬうちに家を出て夜通よどほし歩いた。あけがたに強雨がううが降つて合羽かつぱまで透した。道は山中に入つて、小川は水嵩みづかさが増し、濁つた水がいきほひづいて流れてゐる。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
合羽かつぱのやうに雨がしのげぬにしろ、軽蔑けいべつしていと云ふものではない。しかし雨が降つてゐるから、まづ提燈は持たずとも合羽の御厄介ごやくかいにならうと云ふのはもとより人情の自然である。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「せめて合羽かつぱなと——それに、足拵あしごしらえもいたしたらどうじゃ。」
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あすこの農夫の合羽かつぱのはじが
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
つきの一口は大小ばかり賣拂ひても金五十兩程になるべし其外そのほか小袖こそで合羽かつぱの類まで彼是六十兩餘の金目かねめの品々を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
殺される十日ほど前、夜中やちう合羽かつぱて、かさに雪をけながら、足駄あしだがけで、四条から三条へ帰つた事がある。其時旅宿やどの二丁程手前で、突然とつぜんうしろから長井直記なほきどのと呼び懸けられた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
乗合自動車を乗りてると、O先生と私とは駕籠かごに乗り、T君とM君とは徒歩でのぼつた。さうして、途中で驟雨しうう沛然はいぜんとして降つて来たとき駕籠夫かごかきは慌てて駕籠に合羽かつぱをかけたりした。
仏法僧鳥 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
用心のために着て居た合羽かつぱを脱いで、辭退する大寺源十郎に着せ、中田屋杉之助は傘だけ差して長崎屋に戻り、幸ひ無事に座布團の下に入つて居た紙入を取つて貰つて、そのまゝ家へ歸つた
銭形平次捕物控:167 毒酒 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
追立おつたてて見ませうかと云ふ我手を振りて是を願ひ下げこゝにて晝餉をしたゝめしが雨はいよ/\本降となりしゆゑかねて梅花道人奉行となりて新調せしゴム引の合羽かつぱを取りいだし支度だけ凛々敷りゝしく此所こゝを出れば胸を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
僕等はしばし休んで合羽かつぱを身にはじめた。その時はるか向うの峠を人が一人のぼつて行くのが見える。やはり此方こつちの道は今でも通る者がゐるらしいなどと話合ひながら息を切らし切らし上つて行つた。
遍路 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)