入墨いれずみ)” の例文
しかる処母が私の眉間の疵を見まして、日頃其方そちの身体は母の身体同様に思えと、二の腕に母という字を入墨いれずみして、あれ程戒めたのに
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
山城やましろ苅羽井かりはいというところでおべんとうをめしあがっておりますと、そこへ、ちょうえきあがりのしるしに、かお入墨いれずみをされている、一人の老人ろうじんが出て来て
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
大きなパイプをくわえて歩いて来るかと思うと、腕に入墨いれずみのある西洋人の水夫が、白い水夫帽を横っちょにかぶって、妙な歌をうたいながら通りすぎます。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
倭人伝によると、当時の日本人は、顔に入墨いれずみをして、ほとんど未開人に近い生活をしていた。そして中国にたびたび入貢して、生口(奴隷)を献上していた。
あすへの話題 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
考へ所持の金子を盜み取んとするにより引捕ひきとらへて金子は取り返し以來心を改めよとてよく/\異見いけん差加さしくはへ候節宿屋の者共馳來はせきたりてかれ片小鬢かたこびんの毛を拔取ぬきとり入墨いれずみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼はもう一度新兵衛の死骸をあらためると、その左の二の腕には紅葉を一面に彫ってあって、その蒼黒い葉のかげに入墨いれずみの痕がかくされているのが確かに判った。
半七捕物帳:19 お照の父 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今は時もかたい上に、軽いものはむち入墨いれずみ、追い払い、重いものは永牢えいろう、打ち首、獄門、あるいは家族非人入りの厳刑をさえ覚悟してかかった旧時代の百姓一揆いっきのように
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この種族の婦人という者はその下顎したあごに三つの縦筋たてすじを描いて居る。それは黒く入墨いれずみをして居るものもあれば、入墨するだけの余裕のない者は植物性の黒い物で描いて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
馬道を通うお客は、見事な刺青ほりもののある駕籠舁かごかきを選んで乗った。吉原、辰巳の女も美しい刺青の男に惚れた。博徒、鳶の者はもとより、町人から稀には侍なども入墨いれずみをした。
刺青 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
僕んちはここから十三丁も離れているが、高台たかだいに在るせいか、家の屋上からあのネオン・サインがよく見える。それは朱色しゅいろ入墨いれずみのように、無気味ぶきみで、ちっとも動かない。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
眉間に十の字に、両頬に耳から口へかけて大きくながれるようにきざみこまれてある青い入墨いれずみも、山の原生林や、渓谷や、素朴な蕃社を背景に眺めてこそ、始めての魅力である。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
氏一日読書する側にこの猴坐してはえを捉え、またその肩に上りて入墨いれずみした紋を拾わんとつとめおり、氏が喫烟に立った間に氏の椅子に座し膝に書を載せ沈思の体まではかったが
そういえばタイガーの入口の電飾はにんしんした支那女の入墨いれずみのあるお腹みたいだぜ。
職業婦人気質 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
文身ほりものというのは、元は罪人の入墨いれずみから起ったとも、野蛮人の猛獣脅しから起ったとも言いますが、これが盛んになったのは、元禄げんろく以後、特に宝暦ほうれき明和めいわ寛政かんせいと加速度で発達したもので
椰子でいた屋根の上には、大きな人形のようなものや、やりがずらりと飾られ、その屋根の下から、首や腕に入墨いれずみをした男や、腕と膝から下に真鍮しんちゅうの輪をはめ、おなかに金の輪をいくつも巻いた女が
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「そのご系図に書いてあるのを見ますると、四名のお孫様は、みな女性にょしょうでござりました。そして、ご姉妹きょうだいの年順に、まだ乳呑児のうちに、左の指の爪へ、うるしのごとく、お鉄漿はぐろ入墨いれずみをなされました」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は入墨いれずみの如き風俗をまで奨励しようとは思いません。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
働らき前書にあらはし置たる通り後藤半四郎の道連みちづれとなり三島宿の長崎屋と云ふ旅籠屋はたごやに於て半四郎が胴卷どうまきの金子を盜取ぬすみとらんとして引捕へられ片々の小鬢こびんの毛を拔取ぬきとられ眞黒に入墨いれずみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
軽いものはむち入墨いれずみ、追い払い、重いものは永牢えいろう、打ち首のような厳刑はありながら、進んでその苦痛を受けようとするほどの要求から動く百姓の誠実と、その犠牲的な精神とは
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
全身に、妙な白い入墨いれずみをした原地人兵が、手に手に、たてをひきよせ、やりを高くあげ、十重二十重とえはたえ包囲陣ほういじんをつくって、海岸に押しよせる狂瀾怒濤きょうらんどとうのように、醤の陣営目懸めがけて攻めよせた。
文身ほりものといふのは、もとは罪人の入墨いれずみから起つたとも、野蠻人やばんじん猛獸脅まうじうおどしから起つたとも言ひますが、これが盛んになつたのは、元祿げんろく以後、特に實暦はうれき、明和、寛政くわんせいと加速度で發達したもので
「オヤ、この腕には何か字が書いてある。入墨いれずみの様ですね」
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
取んとしたる騙子ごまのはひなり其時彼奴きやつ引捕ひきとらへしに宿屋の者ども寄集り片小鬢かたこびんの毛を引拔て入墨いれずみをなしたるなり因て某し彼奴をいましめ以後惡心出しなら其の入墨を水鏡みづかゞみうつし見て心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
会場へ入るには手頸てくびのところに入墨いれずみしてある会員番号を、黙って入口の小窓の内に示せばよかった。だから僕にも「べに四」と朱色しゅいろの記号がってあり、それは死ぬまで決して消えはしないのである。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
真にせまった一匹のトカゲの入墨いれずみであった。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこにRと入墨いれずみがしてあるのが、その虎女だ
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)