すぐ)” の例文
本当の自殺よりも、狂言自殺をたくらむだけのイタズラができたら、太宰の文学はもっとすぐれたものになったろうと私は思っている。
不良少年とキリスト (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
すぐれた芸術家ほどそういうものを豊かにもっている。人間性の様々の工夫、様々の思案を親切に評価し認めてゆくのは作家の愛です。
香取秀真かとりほつま氏が法隆寺の峰の薬師で取調べたところにると、お薬師様に奉納物ほうなふものの鏡には、随分すぐれた価値ねうちのものもすくなくなかつたが
真にすぐれた評論家であるなら、幼稚な中にも何か後人を首肯せしめるものがなければならないが、何処にもそんなものは見出だされない。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そうして、久我之助やお三輪に感激すると同時に、この「妹背山」という芝居までが非常にすぐれたる作物であるかのように思われて来た。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
このひとすぐれた才子さいしでありましたが形恰好なりかつこうすこへんで、せいたかかたて、見苦みぐるしかつたので、人々ひと/″\わらつてゐました。
すぐれた批評家は、相手といっしょに歩もうとするが、それは不可能である。「自我」はきっと、他人を容れる余地を持たぬ狭い道を行くから。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
長谷川流の長谷川宗喜、無海流の無一坊海園、鐘捲流の鐘捲自斎などの俊才が出たが中でも鐘捲自斎がすぐれていたらしく
巌流島 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
……昔物語りに語られる神でも、人でも、すぐれた、と伝えられる限りの方々は——。それに、おれはどうしてこうだろう。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
まずすぐれたる二席についてのみ、最初に語ろう。下総国大貫村にお里という美しい娘があり、それを名主の息子が見染めて嫁に迎えることとなる。
「これは驚いた」、「このエチュードのすぐれていることは解っているが、こんな演奏が出来るものとは思わなかった」
由来、日本の文学者は描写がすぐれていないと私は思っている。徳川末期文学には溌溂はつらつたる描写がことに欠けている。
武州公秘話:02 跋 (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
しかしそれはもっとも不出来なものであった。自分は彼れの手に成ったもののうちで、もっともすぐれたと思われるのを、一二度雑誌へ周旋した事がある。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
フィツジェラルドの英訳をテクストとした森亮もりりょう氏のすぐれた訳業に啓発されて、全部有明ありあけ調の文語体で翻訳したが(解説二、「ルバイヤートについて」の項参照)
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
哲学者たるとともにまたすぐれた古典文学者であったシュライエルマッヘルは、クセノフォンのソクラテス描写とプラトン、アリストテレスのそれとを比較検討して
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
この観点から見ると、代数的解法は幾何学的解法と同等の価値があるという以上に、解析的解法を採用すれば、すぐれた一般的で科学的な解法を採用したということが出来よう。
氏の作品の中で最もすぐれたものかもしれぬが、読者は氏の作品に、今では、ほとんどインポッシブル〔(不可能な、信じがたい)〕な何者かを要求するくせがついてしまっている。
探偵小説壇の諸傾向 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
この密室犯罪の方法を取り入れて最も巧妙な解決を示したものは、かつて書かれた探偵小説のうち最もすぐれた作品であるところの、かのガストン・ルルウの『黄色い部屋の秘密』である。
音楽なども長唄ながうたをのぞいては、むしろ日本のものよりすぐれた西洋音楽を好みます。
行手ゆくてには、こんもりとした森が見えて、銀杏いてふらしい大樹が一際ひときはすぐれて高かつた。赤くつた鳥居とりゐも見えてゐた。二人はそれを目當てに歩いた。お光は十けんあまりもおくれて、沈み勝にしてゐた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
すぐれた人物というものも出ないし、また異常なる篤行家とか奇行家というのもとんと出ない、また昔は名物の馬鹿が各村に存在して居たのだが、今はそういう馬鹿も全く影をひそめてしまった。
世界のすぐれた純小説は、りつぱにその可能性を実現してみせてゐる。
黄檗わうばくすぐれし僧のおもかげをきのふも偲びけふもおもほゆ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
由来、日本の文学者は描写がすぐれていないと私は思っている。徳川末期文学には溌溂はつらつたる描写がことに欠けている。
海上生活を描いたすぐれた文章が無い。しかし、山岳に関する文章は、明治以後にも可成り現れているようである。
登山趣味 (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
それは米国のウヰルソン大統領で、ウヰルソン氏がタイピストとしての手際は、大統領としての手腕よりも、学者としての見識よりも、際立つてすぐれてゐる。
すぐれた作品とは、緊張した意識の流れから、れた果実がいつか枝から落ちるように、生まれ出るもの」
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
パデレフスキーを別格として、当代の現役的な大ピアニスト中、最もすぐれた人を選んだならば、十人の九人まで、シュナーベルとコルトーを挙げることであろう。
語学でも分るように特異な頭脳であったが、週期的な精神錯乱のせいなどあって、構成や表現が伴わず、眼高手低、宿命的な永遠のすぐれたディレッタントであった。
篠笹の陰の顔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
日本語の翻訳で、伸子はそのすぐれた短篇を知っていた。でも、英語でよまれるのをきいている。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
三渓の蒐集品は文人画ばかりでなく、古い仏画や絵巻物や宋画や琳派りんぱの作品など、尤物ゆうぶつぞろいであったが、文人画にも大雅たいが蕪村ぶそん竹田ちくでん玉堂ぎょくどう木米もくべいなどのすぐれたものがたくさんあった。
漱石の人物 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
彼は言った——「ペルシア人は五世紀間の数多い詩人の中で、特筆に値いする詩人としてわずかに七人の名しか挙げないと言われている。しかし彼らがしりぞける残余の詩人の中にさえも、私などよりははるかにすぐれた人々がたくさんいるのにちがいない」
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
全くさうで、樹木はどんな彫刻よりもすぐれてゐる。して人間などとは比べ物にならない。だが、戸川氏の発明といふのはそんな事ではない、戸川氏は言つた。
福田恆存などといふすぐれた評論家に就ても一ヶ月前までは名前すら知らなかつた。たまたま、某雑誌の編輯者が彼の原稿を持つてきて、僕にこの原稿の反駁を書けといふ。
花田清輝論 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
が、さういふ氣持は力強く實行に移らなくつて、われながら仕事の上にすぐれた進歩は見られなかつた。肉體を描いても自然を描いても、實感のともなはないものばかりだつた。
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
徳永氏がすぐれたものとしてあげている『中央公論』六月号のスペイン戦線からの作家たちのルポルタージュ、又はオストロフスキーの小説「鋼鉄はいかに鍛えられたか」などこそは
必ずしもその描写全体がすぐれているゆえではなかろう。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
悪魔は、すぐれた歴史家であり、社会学者である。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
「さうぢや、右の三人は無論すぐれては居るが」家康はいつもの癖で、こはばつた掌面てのひらで軽く膝頭を叩いた。
すぐれたものであれば、それでよろしいので、日本の従来の考え方の如く、シカメッ面をして、苦吟くぎんして、そうしなければ傑作が生れないような考え方の方がバカげているのだ。
世界の美術史には、これまでに何人かのすぐれた婦人画家たちの名が記されている。
仕合しあはせと道具屋は名人をこさへる事にかけては、その道の師匠よりもずつとすぐれた腕を持つてゐるので、幸田氏は十日も経たぬうちに名人の吹いた尺八を三本まで手に入れた。
非常に人物のすぐれた叔母に育てられ、その没後数年は当時のロシアの富裕で大胆で複雑な内的・社会的要素の混乱の中におかれている青年貴族、士官につきものの公然の放縦生活を送った。
ジャンの物語 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
みんな同人だったからだ。さもなければこれら新鋭評論家に就て、その仕事に就て、おおむね無智の筈であった。福田恆存などというすぐれた評論家に就ても一ヶ月前までは名前すら知らなかった。
花田清輝論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
もしかお互に狐のやうな尻つ尾を持つてゐたなら、犀水氏は立派な画家ゑかきは皆尻つ尾を持つてるものだと言ふだらうし、栖鳳氏もすぐれた批評家は大抵さうだとお愛相あいそを言つたに相違なかつた。
×さんが彼女を紹介した人で、彼は現代のすぐれた作家の一人であった。
沈丁花 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)