かた)” の例文
お松としては、言句ごんくも出ないほど浅ましい感に堪えなかったので、かたえにいたムクをつかまえて、こんなことを言いかけてみました。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
許されぬ。只眼にあまる情けと、息に漏るる嘆きとにより、昼は女のかたえを、夜は女の住居すまいの辺りを去らぬ誠によりて、我意中を
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
女房の不平をまくしたてようとする銅義を、かたえに押しやったチョビ安は、お美夜ちゃんの手を取って、二人並んで泰軒先生のまえにすわった。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「あゝ、はらがへつた!」MMえんじをはるとかたへの卓子たくしうえから、ビスケツトかなにかをつまんでくちほうりこんだ。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
衣を縫うていればかたえに来て、姉弟が坐り、立って庭に行けば弟は庭の木々の名をもの語り、秋に実るものがあればその美しい果実の色までを話した。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
こぼしたりさて干支えとのよくそろひ生れとて今まで人にしめさざりしが證據しようこといふ品見すべしと婆はかたへのふる葛籠つゞら彼二品かのふたしなを取出せば寶澤は手に取上とりあげまづ短刀たんたう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いかにも芸人らしい物馴れた手付きで煙草を詰め、かたえの黒塗りの提げ煙草盆の火でしずかにいつけると、フーッと二、三度、うすむらさきの輪を吹いた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
さういふわけで、最後の呟きを洩らした瞬間、彼はもはや全くどうすることもできなくなつたのであらうが、なんの躊躇ためらふところもなくかたへのベンチへただヘタ/\と崩れ落ちたのであつた。
はま女はそう云ってつとかたわらの梅の枝を指さした。
初蕾 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と、そッとかたえの人の袖を引いた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつきたるちさほくらかたへ過ぎ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
とめどもない高笑いをしながら、かたえの人のまげを持って引きずり廻していると、引きずられながら高笑いをしつづけている者もあります。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
通り掛るに道のかたはらに親子と見ゆるが休み居たり傳吉は何心なく彼女親を見るといとやつれたるかたちなれども先年家出せし叔母お早に似たりと思ひしゆゑに立戻たちもどり段々樣子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
僕も不思議のきょく内心少々こわくなったから、なお余所よそながら容子ようすうかがっていると、薬缶はようやく顔を洗いおわって、かたえの石の上に置いてあった高島田のかずらを無雑作にかぶって
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いきおいこんで乗り出す源三郎を、玄心斎と大八は、かたえから制して
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そうしている間、例の後ろの高札場と、そのかたえなる歯の抜けた老女のような枯柳が、立派に三枚目の役をつとめました。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
配り在りけるが今夜はのお專に委細くはしく相談せんと思ふ故少し風もこゝろよく候へば湯に入りて來らんと湯殿ゆどのの方へ立ち出でければお專はとく縁側えんがはへ立ち出でかたへの座敷ざしきへ連れ行て貴方が湯に入り給はんと申さるゝ故荷物にもつ番に御ぜん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その名を異様に感じてそのかたえを見ると、ここへ秀吉が床几しょうぎを据えて軍勢を指揮したところだと立札に書いてあって、その次に一詩が楽書らくがきしてある。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうして、母子は程よいところの木の根方へ腰を下ろして、提灯はかたえの木の枝へ程よく吊り下げ、そうして心安げに話をするくつろぎになりました。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かたえにあればあるものを取って抑えて、むちゃくちゃにその興奮のるつぼへ投げ込むよりほかはない。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
という声に驚かされて、そのかたえを見やると、道庵先生が、縦の蒲団を横にして寝ているのです。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
せめて、あの船の着くのを見ていてやりたいような気分から、かたえの小尼を相手に暫くの間——
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それを、かたえから、さいぜんよりじっとのぞいていたのが、伊達家の乙士であった。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
くわを取り上げて、かたえの小流れのところへ行って手を洗い、そのついでに、ブルブルとかおを二つばかり水で押撫で、それから腰にたばさんだ手拭を抜き取って無雑作むぞうさに拭き立ててしまうと
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
思い直したと見えて、それを脇差にはさんでしまい、体を斜めにして、かたえの木剣を引寄せて、今度来たならば一撃のもとにと身構えしているとは知らず、三度目にこそこそと板の間の隅を走る鼠。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)