使者つかい)” の例文
道すがらはまたお使者つかいで、金剛石のこの襟飾えりかざり、宝玉のこの指環、(嬉しげに見ゆ)貴方あなたの御威徳はよく分りましたのでございます。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それも神様かみさまのお使者つかいや、大人おとなならばかくも、うした小供こどもさんの場合ばあいには、いかにも手持無沙汰てもちぶさたはなは当惑とうわくするのでございます。
花咲かば告げんと云いし山里の、使者つかいは来たり馬に鞍……と、鞍馬天狗のうたいである。能の催しでもあると見え、凛々として聞こえて来る。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いや、よろしい。承知しました。川島の御隠居にそういってください、浪は今日引き取るから、御安心なさい。——お使者つかい御苦労じゃった」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
甲必丹カピタンオルフェルト・エリアス殿並に館員御一同として一通、吉雄幸左衛門宛に一通、西善三郎へ一通、手早くしたためて使者つかいに持たせて出してやり
米国のはいになり米国の土になった彼女は、しんに日本が米国につかわした無位無官の本当の平和の使者つかいの一人であったと。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それは兎も角、鬼瓦の方から碁の客が来ているからと小僧を寄越すこともあれば句会があるからと言って愚迂多羅兵衛の方から僕が使者つかいに行くこともある。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「今日も少し使者つかいの来るのが遅かったら、好かったんだが、……明日あすでも自分で社に行くと可い。」と言う。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
あの大胆な落ち着きぶりと、あの名優以上ともいうべき巧妙な表情によって、J・I・Cから選抜されて、私を一杯喰わせに来た「死の使者つかい」でなければならぬ。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
くりかえさせるのだ。そんな甘手あまてにのって戻るような使者つかいか使者でないか、よう眼で見ろっ。貴様の云い訳は、きのうまでは通用したが、きょうはもうその手では吾々を
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし釈尊の弟子ともあろうものが、ただ、形式の見舞いの使者つかいでは物足らなくあります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
相手の言うままにしたためた上、自分もあちらの方面に所用があるから、何なら私が届けて進ぜましょう、御返事があるようならまた房路もどりにと、うまく言って使者つかいまで請合ってきた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
「我は左京之進殿の使者つかいじゃ、左京を神にして祭るとなれば、喜んで受けられる」
八人みさきの話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
使者つかいも電報もないのだ。四日過ぎた。それでも熟んだでも潰れたでもないので、痺れを切らしたマクドオナルド夫人は、心配の余り、意を決して自分のほうから倫敦へ駈けつけたのだが——。
消えた花婿 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
合点長屋と近江屋とは髪結甚八を通して相当昵懇じっこんの仲、そこで近江屋から使者つかいが立って、藤吉親分へ事を分けての願掛けとなった次第、頼まれなくてもここは一つ釘抜の出幕だ、親分さっそく
何処からか、救いのお使者つかいがありそうなものだ。
子をつれて (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
今までそこにふンぞり反って、暴れていた床屋の職人が、その人の使者つかいだというお夏さんを、たとい親だって好くいおうか。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『あんな鹿爪しかつめらしいかおをしているくせに、そのこころなかなんという可愛かわいいものであろう! これなら神様かみさまのお使者つかいとしておやくはずじゃ……。』
「深夜ご苦労にござります」儒者風の使者つかいはこういって気の毒そうに会釈したが、「駕籠を釣らせて参りましてござる。いざお乗りくだされますよう」
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
成程使者つかいが丁度向に行った頃が十二時時分であったろうから、主筆も編輯長もまだ出社せぬというのは、そうであろう。が、「その金は渡すこと相成り難く候。」とあるのは可怪おかしい。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
喜平氏は親友湊屋仁三郎の使者つかいとして同業の水野が、白足袋などを穿いて改まって来たので、何事か知らんと思って座敷に上げた。ちょうど時分がよかったので午餐ごさんまで出して一本けた。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
伊賀の暴れん坊……柳生源三郎の使者つかい
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「いや、それは何でもない。かねて小林から頼まれていた品が見つかった。いずれ近日持主同道で持参するからよろしくというだけだ。いずれ茶器か何かのことだろうよ。だが、貴公は何にも知らないていで、ただ使者つかいに来たようにしておいた方がいい」
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
白昼凝って、ことごとく太陽の黄なるを包む、混沌こんとんたる雲の凝固かたまりとならんず光景ありさま。万有あわや死せんとす、と忌わしき使者つかいの早打、しっきりなく走るはからすで。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わずかに日頃よしみある岩村の城主に使者つかいを遣わし、事の次第を知らせたばかりで、兵を出そうとさえしなかった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
このかたがこちらの世界せかいわたくし指導しどうしてくださる産土神うぶすながみのお使者つかいだったのでございました……。
そのため使者つかいつかわして、今晩参って話し合うよう、その市之丞まで申し入れましたところ、その者は来ずに代りとして、あなたがお見えになられたような次第
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
其処そこへですよ、奥深く居て顔は見せない、娘の哥鬱賢こうつけんから、こしもとが一人使者つかいで出ました……
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
えた城下の人々は、毎日あらわれるこの二人を、神の使者つかいとも思っていた。そして二人の姿が見えると皆一斉に手を合わせて、念仏や題目を唱えるのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
が、陸軍病院の慰安のための見物がえりの、四五十人の一行が、白いよそおいでよぎったが、霜の使者つかいが通るようで、宵過ぎのうそ寒さの再び春に返ったのも、更に寂然せきぜんとしたのであった。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おっつけ殿からの使者つかいが来て、芽出度めでたく帰参が適うものと、かたく信じて居るからでござるよ
村井長庵記名の傘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
(おう、ようしてござれ。)お使者つかい
さらに奥方よりは澄江に対して、守袋と金一封をさえ、使者つかいを以て下された。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それにもう一つ紋兵衛は、五千石の旗本で、駿河守には実の舎弟、森家へ養子に行ったところから、森帯刀たてわきと呼ばれるお方から、密々に使者つかいいただいていたので、上京しなければならないのであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
こういって使者つかいは辞し去った。
北斎と幽霊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)