五分ごぶ)” の例文
一寸いっすんの虫にも五分ごぶの魂というが当節はその虫をばじっと殺していねばならぬ世の中。ならぬ堪忍するが堪忍とはまず此処ここらの事だわ。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この男の王仏元おうぶつげんというのも、平常いつも主人らの五分ごぶもすかさないところを見聞みききして知っているので、なかなか賢くなっている奴だった。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
自分はこの鋭い刃が、無念にも針の頭のようにちぢめられて、九寸くすん五分ごぶの先へ来てやむをえずとがってるのを見て、たちまちぐさりとやりたくなった。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また智恵ちゑがあるつてくちかれないからとりとくらべツこすりや、五分ごぶ五分のがある、それはとりさしで。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さっそくつかまえて、一寸いっすんだめし五分ごぶだめし、なぶり殺してやらねば、こっちの気がおさまらないわ
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
色は青味を帯びた、眉毛の濃く、眼の鋭い、五分ごぶ月代毛さかやけはやした、一癖も二癖もありそうなのが
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
貴重品きちようひん一時いちじ井戸ゐどしづめることあり。地中ちちゆううづめる場合ばあひすなあつ五分ごぶほどにても有效ゆうこうである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
と口々に呶鳴どなり立てられて、元来卑怯未練な蟠龍軒、眼がくらんだと見えまして、五分ごぶの隙もないのに滅茶苦茶に打込みました。文治はチャリンと受流し、返す刀で蟠龍軒の二の腕を打落しました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
五分ごぶ、棉打てぬ
野口雨情民謡叢書 第一篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
同時に長吉ちやうきち芝居道しばゐだう這入はいらうといふ希望のぞみもまたわるいとは思はれない。一寸いつすんの虫にも五分ごぶたましひで、人にはそれ/″\の気質きしつがある。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しかもそのうち五分ごぶは親方が取っちまって、病気でもしようもんなら手当が半分だから十七銭五厘ですね。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……いま鍋下なべした、おしたぢを、むらさき、ほん五分ごぶなまなぞとて、しんことくと悚然ぞつとする。れないでねぎをくれろといふときにも女中ぢよちうは「みつなしのほん五分ごぶツ」といふ。
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そ、それが五分ごぶがない、はなくち一所いつしよに、ぼくかほとぴつたりと附着くツつきました、——あなたのお住居すまひ時分じぶんから怪猫ばけねこたんでせうか……一體いつたいねこ大嫌だいきらひで、いえ可恐おそろしいので。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その毛は五分ごぶくらいなのと一寸いっすんくらいなのとがまじって、不規則にしかもまばらにもじゃもじゃしている。自分が居眠いねぶりからはっと驚いて、急に眼を開けると、第一にこの頭がひとみの底に映った。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こまやかに刻んだ七子ななこ無惨むざんつぶれてしまった。鎖だけはたしかである。ぐるぐると両蓋りょうぶたふちを巻いて、黄金こがねの光を五分ごぶごとに曲折する真中に、柘榴珠ざくろだまが、へしゃげた蓋のまなこのごとく乗っている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
口は一文字を結んでしずかである。眼は五分ごぶのすきさえ見出すべく動いている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その代り自分にも五分ごぶくつろぎさえ残しておく事のできない性質たちに生れついていた。彼女はただ随時随所に精一杯の作用をほしいままにするだけであった。勢い津田は始終しじゅう受身の働きを余儀なくされた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)