頸窪ぼんのくぼ)” の例文
と、人の顔さえ見れば、返事はこう言うものとめたようにほとんど機械的に言った。そして頸窪ぼんのくぼをその凭掛った柱で小突いて、超然とした。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
頸窪ぼんのくぼ胡摩塩斑ごましおまだらで、赤禿げに額の抜けた、つらに、てらてらとつやがあって、でっぷりと肥った、が、小鼻のしわのだらりと深い。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うむとうなって、徳利を枕にごろんとなると、すべった徳利が勃然むっくと起き、弦光の頸窪ぼんのくぼはころんと辷って、畳のへりで頭を抱える。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その内に、同じくのッつ、そッつ、背中を橋に、草に頸窪ぼんのくぼを擦りつけながら、こう、じりりじりりと手繰たぐられるていに引寄せられて、心持動いたげにございました。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その身動きに、いたちにおいぷんとさせて、ひょこひょこと足取あしどり蜘蛛くもの巣を渡るようで、大天窓おおあたま頸窪ぼんのくぼに、附木つけぎほどな腰板が、ちょこなんと見えたのを憶起おもいおこす。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鼻のさきにただよう煙が、その頸窪ぼんのくぼのあたりに、古寺の破廂やれびさしを、なめくじのようにった。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
古手拭ふるてぬぐいで、我が鼻を、頸窪ぼんのくぼゆわえたが、美しい女の冷い鼻をつるりとつまみ、じょきりと庖丁でねると、ああ、あつつ焼火箸やけひばしてのひらを貫かれたような、その疼痛いたさに、くらんだ目が、はあ
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
東京から人を呼びます騒ぎ、仰向けに倒れた、再び、火鉢で頸窪ぼんのくぼを打ったのです。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
駅員えきゐん一人ひとりは、帽子ばうしとゝもに、くろ頸窪ぼんのくぼばかりだが、むかふにて、此方こつち横顔よこがほせたはうは、衣兜かくし両手りやうてれたなり、ほそめ、くちけた、こゑはしないで、あゝ、わらつてるとおもふのが
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
川の方の砂堤すなどての腹にへばりついて、美しい人の棄てた小笠を頭陀袋ずだぶくろの胸に敷き、おのが檜木笠を頸窪ぼんのくぼにへしつぶして、手足を張りすがったまま、ただあれあれ、あっと云う間だった、と言うのです。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
突懸つっかかり、端に居たやつは、くたびれた麦藁帽むぎわらぼうのけざまにかぶって、頸窪ぼんのくぼり落ちそうに天井をにらんで、握拳にぎりこぶしをぬっと上げた、脚絆きゃはんがけの旅商人たびあきんどらしい風でしたが、大欠伸おおあくびをしているのか、と見ると
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
持主の旅客は、ただ黙々として、俯向うつむいて、街樹なみきに染めた錦葉もみじも見ず、時々、額をたたくかと思うと、両手でじっ頸窪ぼんのくぼおさえる。やがて、中折帽なかおれぼうを取って、ごしゃごしゃと、やや伸びた頭髪かみのけ引掻ひっかく。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)