音物いんもつ)” の例文
世の中には、呆痴こけがいる。人へ音物いんもつをよこすに、餌を食わせたり、世話がやけたり、その上に、やがては死ぬときまっている厄介物を
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これだけの音物いんもつを持つて來たんだ、安く扱つて貰ひ度くねえ——と言つた傲慢さが、獅子つ鼻の先にブラ下がつて居ります。
いよいよ留守と決まったので、小坂部は中間に持たせて来た音物いんもつを縁の端に置き列べさせて、自分はそっと内へあがった。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
公卿くげ、町人——総がかりで隠居隠居と、わしを持てはやし、さまざまな音物いんもつが、一日として新しく、わしのくらを充たさぬということもないのだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
禄高に応じた手土産音物いんもつを献上してのち、何かと儀式やかましい御機嫌伺いの挨拶をするのが面倒なところから、中の才覚達者なのが考えついて
音物いんもつはお贈りする人の心の、誠の現われでございますれば、眺めて快く受けて楽しいよろしきものにございます」
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして、音物いんもつをやらなければ、贈り物をしなければうまくゆかない。このようなことを悟ったのでありますが、こういうことは全部、本国へ云い送っているのであります。
三栖庄からして巨口細鱗の鱸がとれたとて進献になると、先ずその一尾を東福寺の斎藤のもとにやった。富松庄の代官が土産を持って来ると、すぐにその一部を土岐への音物いんもつにした。
八百兩にて請出うけいだよめとなし吉之助きちのすけ勘當かんだうをも免し目出度めでたく夫婦ふうふとして喜八夫婦には横山町よこやまちやう角屋敷かどやしき穀物店こくものみせに三百兩つけあたへ家主平兵衞へいべゑへはみぎ横山町よこやまちやう地面ぢめん間口まぐちけん奧行おくゆき十八けん怙劵こけん種々いろ/\音物いんもつ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
と、馳走した上、音物いんもつを贈って、さまざま君前くんぜんを申しなだめて貰いもし、また、営中の形勢をもただそうとしたのだが、飛騨守は、たもとを払って
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
来れば人の及びもつかぬめずらかな音物いんもつを携え、召使にも愛想をこぼし、わけて登子を笑わすことに妙をえていた。で、大蔵の家中誰でも、彼をもくすに
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なるべく音物いんもつ届けずに済むようと、気に入らぬ所業ばかり致すのでな、頂かぬものは即ち貸し分じゃ。
「伊豆殿、わしはこう思うので、音物いんもつは政治の活力だとな」こう云ったのは六十年輩の、長身、痩躯そうく、童顔をした、威厳もあるが卑しさもあり、貫禄もあるが軽薄さもある
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
されば今日の變事へんじに付稻葉家に於ては大いに心配しんぱい致され取敢とりあへず日野殿の御機嫌伺きげんうかゞひとして家老からうの中をつかはされんと城代稻葉勘解由かげゆを以て京都日野方へ參入致させ種々しゆ/″\音物いんもつ山の如く贈られて今日の變事へんじ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一見、軽い音物いんもつのようだったが、その中の青柚子ゆず一箇に刺してあった小刀を抜いてみたら、当時千金とも評価されていた名工後藤の秋草彫りの小づかだった。
美しい日本の歴史 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
音物いんもつ献上品けんじょうひんを出しおしみ勝ちな大名が通行の際は、雨の日風の日の差別なく、御陣屋前の川に糸を垂れてこれを待ちうけながら、魚と共に大名釣を催されるのが、しきたりだったために
そこで、秀郷は、将来のため、また、その折にあずかって庇護をうけた右大臣忠平へ、かさねて、莫大な音物いんもつをたずさえて、はるばる上洛したわけであった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
王允おういんは、秘蔵の黄金冠おうごんかんを、七宝しっぽうをもって飾らせ、音物いんもつとして、使者に持たせ、呂布の私邸へ贈り届けた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一行は冷遇れいぐうかこった。第一、柴田家からの沢山な音物いんもつにたいしても、目録を収めたきりで挨拶もない。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
音物いんもつを伝えたということなどからして、数正はよけいに、痛くもない腹をさぐられ勝ちであった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
外国への音物いんもつに領土の人間は用いないであろうにと、彼はそのとき左右の者に語ったが、若い黒人は、なかなか愛嬌者に見えたので、御小人おこびとの中に預け、外出の時など
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まあ、いつもお珍しい贈り物をいただいて」と、郭汜夫人は、まず珍貴な音物いんもつの礼をいって
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こういう音物いんもつに対しては、中味が何であろうと、極めて潔白な伝八郎は、すぐ眉をひそめて
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
役儀表は、主君忠房の音物いんもつをもたらして、福井の城主松平越前守のご機嫌伺いであった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、そこへ広蓋ひろぶたに載せた種々くさぐさ音物いんもつに、一のうの砂金まで贈っていた。幕府内の有力な者が地方へ出れば、ところの地頭や守護は、あいさつとして、通例、こういう礼を執ってくる。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その数には入らない者でも、それらの者の黄金色こがねいろな世界を挙げて羨望せんぼうした。武士すらその風潮にそまり、それと妥協しそれと音物いんもつのやりとりすることを、公然と表門からしていた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この鍋鶴は、縁喜えんぎがようない。支那では、不吉な鳥というそうだが、ほんとに不吉だぞよ。どこの大名か、この厄介者を音物いんもつかつぎこんで来たのが、今年の正月の十四日じゃった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
北ノ庄の遠くから勝家が鄭重ていちょうな使者と音物いんもつもたらして来たことにたいしては、それきり答礼もせず、書信も送らず、やなえき帰趨きすうが明らかになってから、却って、無沙汰の秀吉の方へ
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上洛者のたれかれを問わず、これを奏聞そうもんに達して、それらの武門が望む叙爵じょしゃく栄職えいしょくの名を聴許ちょうきょし、武家の音物いんもつ黄白こうはくを収入とするのが、ともあれ、この人々の唯一な生きる道ではあった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遠国の路を、数々の音物いんもつ、心入れなことよ。匠作しょうさくには、相かわらずかの。——云いわすれたが、故右府殿のお妹、久しゅう後家でおわしたお市御料人ごりょうにんを先頃お室へ迎えられたそうな。めでとう存ずる。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
数正への音物いんもつもあった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)