離屋はなれ)” の例文
「驚きましたよ、親分。手代の小半次が寮の離屋はなれに主人が殺されてゐると騷ぎ出したので、盃を投り出して飛んで行つて見ると——」
佐伯氏は、あかねさんという、すごいような端麗たんれいな顔をした妹さんと二人で別棟べつむね離屋はなれを借り切って、二階と階下したに別れて住んでいる。
キャラコさん:03 蘆と木笛 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
行燈あんどん草双紙くさぞうしのようなものを読んでいた。それは微熱をおぼえる初夏のであった。そこは母屋おもやと離れた離屋はなれの部屋であった。
水面に浮んだ女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
十一娘は泣いてめて、離屋はなれにおらした。そこで葬式の飾りにした道具を売って、それを生活費にあてたので、どうにか不自由がなかった。
封三娘 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
彼は八畳と三畳との二室の離屋はなれを借りて、それを一軒の家みたいにして住んでいる。食事は一切うちの人がしてくれるし、身辺の面倒までみてくれる。
夢の図 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ばたばたと、母屋おもやから離屋はなれまわりを、そのとき、旅籠はたごの雇人たちが三、四名駈けていた。亭主のすがたをここに見ると、一人の番頭が、あわてていった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奥には四畳半の離屋はなれがあるので、急病人をそこへ運び込んで介抱していると、幸いに病人は正気に戻った。
影を踏まれた女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なみの席より尺余しゃくよゆかを高くして置いた一室と離屋はなれの茶室の一間とに、家族十人の者は二分にぶんして寝に就く事になった。幼ないもの共は茶室へ寝るのを非常に悦んだ。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
田舎から呼寄せられて離屋はなれに宿泊していた大工のもくさんからも色々の話を聞かされたがこれにはずいぶん露骨な性的描写が入交いりまじっていたが、重兵衛さんの場合には
重兵衛さんの一家 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
梅や、かえでや、青桐やの植込みの間を飛石伝いに離屋はなれの前へ立つと
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
「昨夜亥刻よつ少し過ぎ(十時過ぎ)小僧の乙松おとまつ離屋はなれの前で嫁のお袖に逢つたさうですよ。月は良かつたし、間違ひはないつて言ふが」
岡本は一時間近くもお高のへやにいて引返して来た。離屋はなれには半ちゃんが酒を飲んでいる前に、あのわかい男とお杉が小さくなって坐っていた。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
……離屋はなれの悦二郎の書斎へでも行って見なさい。懸巣かけすがいてね、それが、よく馴れて面白いことをする……光るものを投げてやると、くちばしでヒョイと受けるよ
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
往来から路地をはいって来て、ここの袋地内の畑や離屋はなれに、勝手がちがったらしくこうつぶやいているのである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奥には四畳半の離屋はなれがあるので、急病人をそこへ運び込んで介抱してゐると、幸ひに病人は正気に戻つた。
自分等は離屋はなれにいたのでその騒ぎを翌日まで知らなかった。
海水浴 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「此處は離屋はなれで、誰も聽く筈はありません。娘も奉公人も母屋おもやで、廊下を人が來ると直ぐ知れますよ。——一體どんな御用で、親分?」
住職は六人の者を離屋はなれに隠して、何人だれにも知らせないようにと、飯時には握飯を拵えてじぶんでそれを持って往った。
八人みさきの話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
例の旅籠屋はたごやである。石ころの多い坂の途中から、汚い長屋門の下を駈けぬけ、畑の奥の離屋はなれまで来ると
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
庭下駄にわげたをはいて、三十歩も歩けば行かれる離屋はなれの書斎が、雲煙万里うんえんばんりの向うにあるような気がする。
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
僅かに垣を隔てて建った林中のいおりで、これが不思議なことに、下屋敷の中にある離屋はなれと一対になった、恰好と言い、場所の関係に
長谷川時雨女史はせがわしぐれじょしの実験談であるが、女史が佃島つくだじまにいたころ令妹れいまいの春子さんが腸チブスにかかって離屋はなれの二階に寝ていたので、その枕頭まくらもとにつきっきりで看護していた。
疫病神 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
植木屋を連れて、三人で近くの津村の控邸ひかえへ行くと、下町の古舗しにせの大旦那といった上品な老人が、巻帯に白足袋といった恰好で、えんの落ちた数寄屋風の離屋はなれから出てきた。
蝶の絵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
この離屋はなれは橋廊下をへだてて、二重壁となっている一見奇怪なからくり普請ぶしん
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「子供の声で自働電話からかけて来たんです。それにしてもおかしいなア、兎に角離屋はなれを見せて下さい、まだ警官は来て居ないでしょう」
流行作家の死 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
平三郎は刀を持ったなりにすごすごと離屋はなれへやへ帰って来た。帰りながらも不思議でたまらないから、若党のいる室へ往って将棋をやっていた二人を呼びだした。
水面に浮んだ女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ものの二十歩も歩いたと思ったら、もう離屋はなれの玄関へ行きついてしまった。
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
もう一つ、後で鶴吉の奉公人どもに訊くと、最初船から上がって、離屋はなれへ入った時、万三郎は羽織を着ていなかったと申します。
崖の離屋はなれでは三人の男が顔をあわしていた。三人のうちの一人は四十四五で、素肌へ茶の縦縞の薄い丹前たんぜんていたが、面長おもながの色の白い顔のどこかに凄味すごみがあった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「それなら解つて居る。吊臺は邪魔になるから、——と言つて外へ置くわけにも行かず、お隣りの酒屋、森川屋の離屋はなれに預けてある筈だ」
木立の寂のある庭があって其の前に離屋はなれになった小さな草葺の簷が見えた。其処には遣水があってそれが木立の間から出て飛石を横切り、そして、また木立の中に隠れていた。
人面瘡物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「ここは離屋はなれで、誰も聴くはずはありません。娘も奉公人も母屋おもやで、廊下を人が来るとすぐ知れますよ。——一体どんな御用で、親分?」
広巳は庖厨口かってぐちからゆるゆると出て往った。出口には車井戸があってじょちゅうの一人が物を洗っていた。車井戸の向うには一軒の離屋はなれがあった。それが広巳の起臥ねおきしているへやであった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「誰もこの離屋はなれには来ないことになっていますよ、母屋おもやの方では、ちょうど晩飯の真っ最中のようだし、——おや、そこにいるのは誰だい」
別れていた捕卒はいつの間にかいっしょになって、最後の奥まった離屋はなれに往った。そこは一段高い室になって、一人の色の白い女が坐っていた。着物の赤や青の綺麗な色彩が見えた。
雷峯塔物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
もう一つ、後で鶴吉つるよしの奉公人共に訊くと、最初船から上がつて、離屋はなれへ入つた時、萬三郎は羽織を着て居なかつたと申します。
書生はドアを開けて出ようとしてふり返った。主翁も引きずられるようにいて往った。主翁は庭前にわさきを歩いていた。庭には池の水が暗い中にねずみ色に光っていた。池のへりを廻ると離屋はなれ縁側えんがわになった。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
離屋はなれの鍵は小栗がひそかに造って、秀子に与えたもの、ビンと一緒にその晩のうちに捨てる筈のを、さすがにあわてて果さなかったのです。
流行作家の死 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
それは曲者——當夜離屋はなれを訪ねた怪しの男は主人丹右衞門を絞め殺した上、何んの目的で大骨を折つて長押に吊つたかといふことがその一つ。
庭下駄を突つかけて、離屋はなれまでには五六間ありましたが、その間に物置の袖が出て居たり、生け垣が邪魔をしたり、なか/\の厄介な道です。
視野をさへぎるのは長崎屋の巨大なむね、——その下には、百萬の富を護るために抱へて置くといふ、二人の浪人者の住んでゐる離屋はなれも見えます。
吾妻屋へ旅装束のままで行った平次は、内外の様子を念入りに見た上、一人一人を呼び出して、離屋はなれの、二階で調べました。
父が二階から降りると、その後から直ぐお若さんが降りましたが、それつきり何時まで經つても——降りて來ないので、私は離屋はなれへ歸りました
土藏の蔭へ廻ると、もと隱居いんきよ家に使つたといふ三間四方程の小さい離屋はなれがあつて、半分開けたまゝの障子の隙間から、中の樣子はよく見えます。
「へツ、見ちや居られませんよ、夜になるとあの生つ白い番頭野郎が、離屋はなれに入浸つて、ベタベタして居るさうで、へツ」
尤も現場を見ると、一應離屋はなれの中に泊つた者の仕業のやうだが、耳の遠い女主人と、伜の專之助と、あの可愛らしいお筆ぢや疑ふ氣になれない。
「大變な奴だ、——棒一本で塀を越した上、離屋はなれひさしに登つて、忍返しのびがへしをけ/\此處まで來ると、欄間をコジ開けて音も立てずに入るとは——」
いくら報道機敏でも、家の者が知らずに居るのに、密閉した離屋はなれで主人が死んで居るのを、新聞社が先に嗅ぎ付けると言うのはあり得ないことです。
流行作家の死 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
離屋はなれの一と間で、誰とも知れぬ者の手で、胸を一とゑぐり、聲も立てずに死んだのでせう。縁側に崩折くづをれたまゝ、血汐の中に息が絶えて居りました。
一應金を受取つた後で、お篠さんが歸るとすぐ、その二百兩を持つて湯島の山名屋へ行き、案内知つた木戸を開けて、いきなり離屋はなれの戸を叩きました