閉切しめき)” の例文
その間をば一同を載せた舟が小舷こべりさざなみを立てつつ通抜とおりぬけて行く時、中にはあわてふためいて障子の隙間すきまをば閉切しめきるものさえあった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ピッタリと閉切しめきったその障子の内側の黒檀縁こくたんぶちの炉のそばに、花鳥模様の長崎毛氈もうせんを敷いて、二人の若い女が、白い、ふくよかな両脚を長々と投出しながら
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
悲鳴するような叫喚さけびが、山に反響して雑然ざわざわ如何いかにも物凄くきこえてくるので、乗客は恐ろしさにえず、皆その窓を閉切しめきって、震えながらに通ったとの事である。
大叫喚 (新字新仮名) / 岩村透(著)
真昼間まっぴるま、向う側からそっすかして見ると、窓もふすま閉切しめきつて、空屋に等しい暗い中に、破風はふひまから、板目いためふしから、差入さしいる日の光一筋ひとすじ二筋ふたすじ裾広すそひろがりにぱつとあかる
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
雨でも降るとスッカリ雨戸を閉切しめきツて親子微暗ほのぐらなかに何がなしモゾクサしていじけ込むてゐる。天気の好い日でも格子戸の方の雨戸だけは閉切しめきツて、臺所口から出入してゐる。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
居間の前へくると杉戸がぴったりと閉切しめきってあった。室内では死面デスマスクをとっているのであった。次の室にも多くの人がいた。手前の控室のようなところには紅蓮洞ぐれんどう氏がしきりに気焔きえんをあげていた。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
幾日も障子襖を閉切しめきつたまゝ炭の火で無暗と暖める爲めであらう、室内の空氣は多量の炭酸瓦斯を含んで重く沈滯してゐる。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
黙っていろよ、何んにも言うな、きっと誰にも饒舌しゃべるでねえぞ、と言い続けて、うちへ帰って、納戸なんど閉切しめきって暗くして、お仏壇ぶつだんの前へむしろを敷いて、其処そこへざくざくと装上もりあげた。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この風と共に寒さは日にまし強くなって閉切しめきった家の戸や障子しょうじ絶間たえまなくがたりがたりと悲しげに動き出した。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
翌日あくるひ一日いちにち寝てござった。ひるすぎに女中が二人ついて、この御堂みどうへ参詣なさった御新姐ごしんぞの姿を見て、私はあわてて、客人に知らさぬよう、暑いのに、貴下あなた、この障子を閉切しめきったでございますよ。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この風と共に寒さは日にまし強くなつて閉切しめきつた家の戸や障子しやうじ絶間たえまなくがたり/\と悲しげに動き出した。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
つた留守るすか、ものごし氣勢けはひもしないが、停車場ステイシヨンからくるまはしらした三にんきやくの三にん其處そこに、とおもつて、ふか注意ちういした、——いま背後うしろつた——取着とツつきの電燈でんとううち閉切しめきつた、障子しやうじまへ
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
昨夜のままに電燈のついている閉切しめきった座敷の中の蒸暑さが一際ひときわ胸苦しく、我ながら寐臭いにおいに頭が痛くなるようなので、君江は夜具の上からい出して窓の雨戸を明けようとした。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
春は閉切しめきったうちの中までも陽気におとずれて来たのである。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
春は閉切しめきつたうちの中までも陽気におとづれて来たのである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)