野天のてん)” の例文
にわかに隣り合った野天のてんばくちの小屋の者は、見ても無関心だった。第一、ここに立った碑にたいしてすら何の関心もないらしい。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
北支那のまちから市を渡って歩く野天のてんの見世物師に、李小二りしょうじと云う男があった。ねずみに芝居をさせるのを商売にしている男である。
仙人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
カモは野天のてんでねるほうがすきだったものですから、にわでねむっていたのですが、ニワトリたちがバタバタにげていく音に目をさましました。
たとえば野獣やじゅう盗賊とうぞくもない国で、安心して野天のてんや明けはなしの家でると、風邪かぜを引いてはらをこわすかもしれない。○をさえると△があばれだす。
蛆の効用 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
野天のてん藝人を一々立つて見た上、今度は足藝と河童かつぱ、ろくろ首に大蛇の鹽漬、といつた小屋掛の見世物を覗いて、一ときばかり後には、鳥娘の繪看板ゑかんばんの前に
……どうぞ助けると思って僕を他の室に……エッ……室が満員なんですって? そんなら野天のてんでも構いません。どうぞどうぞ後生ですから、僕を別の室に……。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ただこのときの伴蔵が傍らの志丈もあとで賞めるよう「悪いという悪い事は二、三の水出し、らずの最中もなか野天のてん丁半の鼻ッ張り、ヤアの賭場とばまで逐ってきたのだ」
驛名を書いた立札たてふだの雨風にさらされて黒く汚れたのが、雜草の生えた野天のてんのプラツトフオームに立つてゐる眞似事まねごとのやうな停車場ステーシヨンを、汽車は一せい汽笛きてきとゝもに過ぎ去つた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そばへ寄って見ると、そこには小屋掛こやがけもしなければ、日除ひよけもしてないで、ただ野天のてん平地ひらちに親子らしいおじいさんと男の子が立っていて、それが大勢の見物に取り巻かれているのです。
梨の実 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
これを積み置く場所もなき有様でござりまする、野天のてんへ投げ出して、せっかくの天物をむなしく風雨にさらし置くは勿体もったいなきことの至りでござりまする、それがために尾張領ではただいま
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
野天のてん大釜おおがまをかけた土竈どべっついからは青々とした煙の立ち上るのも目につきました。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わたしが、ジョリクールといっしょに宿やどに待っているあいだに親方がさかり場で一けん見世物小屋を見つけた。なにしろ野天のてん興行こうぎょうするなんということはこの寒さにできない相談そうだんであった。
悪く行き合せると、田舎の事だから牡丹餅ぼたもちをこしらえてる、餡粉あんこの草餅を揉んでる。まあまあ、どうぞお一つ、それやアお一つ、てこ盛りで、勧め方があくどいからね。それに野天のてんは暑いし。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
トキワ館のそばに、岩をくんだ野天のてんぶろがあります。三人はまずそこへはいって、およいだり、お湯のかけっこをやったり、大はしゃぎをしたあとで、部屋にもどって、おいしい夕食をたべました。
天空の魔人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おゝ、ロミオ、足下おぬし戀人おてきが、な、それ、開放あけっぱなしのなにとやらで、そして足下おぬし彼女あれ細長林檎ほそながりんごであつたなら! ロミオ、さらば。野天のてんとこではさぶうてられぬ、下司床げすどこよう。さ、かうか?
「家の中よりは、広々とした野天のてんに寝る方が気楽でよいからのう」
キンショキショキ (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
低い雲は野天のてんを覆つてゐる。
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
この辺の顔役かおやく花隈はなくまくまと、生田いくたまんという親分が、この街道すじの客をあいてに、毎年の例で、野天のてんで餅つきの盆ござ興行をいたすのだ。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが、野天のてんに寝て、不味まずい物を食うようになってから、不思議に弥三郎の病気は癒って行きました。
蟇のこゑ野天のてんにひびくひるちかくこげいろの風も麥あふり吹く
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
いうまでもなく、野天のてんばくち。毎年の例で、この辺の港場みなとばの船持、漁夫、町の金持、街道すじの旅の者などみな集まる。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
野天のてん芸人をいちいち立って見た上、今度は足芸と河童かっぱ、ろくろ首に大蛇の塩漬、といった小屋掛の見世物を覗いて、一刻いっとき(二時間)ばかり後には、鳥娘の絵看板の前に
蟇のこゑ野天のてんにひびくひるちかくこげいろの風も麦あふり吹く
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
蛾次郎、それをかきあつめては、毎日、卜斎の家を留守るすにして、野天のてん芝居しばいをみたりいに日をらしている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)