たぶら)” の例文
と余は奮然として云い直し「己れ人殺しの悪女め、能くも淑女に化け替って今まで余と叔父とをたぶらかした、是からは其の手は食わぬぞ」
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
最上もがみ義光にたぶらかされた政宗の目上が、政宗を亡くして政宗の弟の季氏すえうじを立てたら伊達家が安泰で有ろうという訳で毒飼の手段を廻らした。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼女はこっそり訴え出た。「娘を誘拐かどわかした同じ一座が、今度は息子をたぶらかそうとします。どうぞお取締まり下さいますように」と。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
種々伝説を造って凡衆をたぶらかしたのだろう、かようの次第で三井の鐘が大当りと来たので、これになろうて他にも類似の伝説附の鐘が出て来たは
その者等が様子をくと見極めてもしも変化のものなら、なんの年こそとっていれ狐狸こりたぶらかされる気遣いはないと、御決心あそばしましたから
これらのチベット人は欧米人をたぶらかしてひたすらおのれの便宜と利益とをはかる為に、耶蘇教のたっとい聖書を道具に使って居るので実に驚いたものであります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
善良な人間をたぶらかして罪に曳きこむことのできない、悪魔に他ならぬことは、たやすく知ることが出来た。
なんじよくこそわが父をたぶらかして、金眸にははしたれ。われもまた爾がためには、罪もなきに人間ひとに打たれて、いたく足をきずつけられたれば、重なる意恨うらみいと深かり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
こいつにたぶらかされているのだと考えたのである。——否、すでに昨夜ゆうべから、この狐が、自分のうしろにまとっていたに違いないという気持さえ咄嗟とっさに起った。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はじめ小田刑事は、狐にたぶらかされたような顔をして、しばらくの間、俊夫君をじっと眺めていましたが
墓地の殺人 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
瞬き盛りの銀座のネオンは、電車通の狭谷を取りめて四方から咲き下すがけの花畑のようだ。また、谷に人を追い込めて、脅かしたぶらかす妖精群のようにも見えた。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
またそれが道鏡をたぶらかすの手段であったならば、彼は道鏡の党与の最大怨府でなければならぬ。
道鏡皇胤論について (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
日ごろ睾嚢こうのう八畳敷きを誇り大風呂敷をひろげて人をたぶらかしていた狸公も、いささか国家のために尽くすところの一役を与えられれば幸甚であると、故郷の村からつい二、三日前
たぬき汁 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
私はしばらく茫然として、狐にたぶらかされたような気持で突っ立っていたが、いくら見廻してもこないだの三人連れが泣いていたのがこの墓であることにはなんの間違いもなかった。
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「ふん……」神谷小十郎が白い歯を見せながら、「こんなところで野出合いか、我等と勝負する力はなくとも、百姓娘をたぶらかすことは得手だとみえる、当節は武士も下がったものだ」
内蔵允留守 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
名主どのをたぶらかすだけにしては、すこしはばがありすぎる。……こりゃア、なにか曰くがあるぜ。お布施なんていうケチなことで、お小夜さんとやらをそうまでいじめつけるわけはない。
顎十郎捕物帳:15 日高川 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
むかしから芸術の神様はやきもち焼で、二心ふたごころを持つたものは屹度たゝられると言ひ伝へてゐる。だが、世の中には、芸術家をたぶらかさうと、態々わざ/\係蹄わなをこしらへて待つてゐるのも少くない。
貴方あなたにはまだお判りになりますまいが、私はこの三年ぜん妻室かないを迎えるとともに、例によって山寺へ往って、学問をしておった者ですが、時おり私の家へ使つかいにやっていた和尚が、妻室かないたぶらかし
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
なんでも明日酒屋の小僧がこの辺を用足しに通った時、うまうまそいつをたぶらかして酒の一斗も持って来させて、酒宴をしようと思うがどうじゃ
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お若が伊之助を恋しい恋しいと慕うて居たじょうを悟り、古狸が伊之助の姿に化けお若をたぶらかしたものと見えまする。
おれを殺して喰え さあ喰え、坊主の所作も出来ない癖に坊主ぶって人をたぶらかす悪魔である、という。その言いようの憎げなことは今思い出してもぞっとする位。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
後、その真にあらざるを知り大いにたぶらかされしを怒る。また弁別力に富む。レンゲルいわく、一度刃物で怪我けがした猴は二度とこれにさわらず、あるいは仔細に注意してこれを執る。
監獄の中に埋まって居た輪田夏子だとはそもそも何たる因果であろう、顔は幾等美しくとも心の醜さは分って居る、其の醜さを隠して、余を欺き余の叔父をまでたぶらかして居るかと思えば
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
茫然——うつつか夢かとそれまで聞いていた泥舟は、さては日頃、自分が余りに兄を恋い慕うので、心の煩悩ぼんのうにつけ入って、狐狸こりか物のが、亡き兄の姿をかりてたぶらかしに来たなと覚えたので
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
真実わたくしにたぶらかされていられるなら、こんないじらしいことはない。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「いやいやお前の才覚のためじゃ。あの白痴の四郎めをお前の手品でたぶらかし、天帝の子と思い込ませたのが、今日の成功をもたらせたのじゃよ」
天草四郎の妖術 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
また山川の神をことごとく日本に送り倭賊をとりこにすべしなど宣言したので、愚民ども城隍じょうこう祠廟しびょうの神をて去り、伊金を仏ごとく敬い福利を祈る、無頼の徒その弟子と称しあいたぶらかし
私はこういうところにいるからと言って土地書ところがきや何かを英語で書いて示したその様子はいかにも私に真実を明かすようでありまして、人をたぶらかすような有様でもなかったから私も考えたです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
待てよ、先刻せんこくから表にたゝずんだまゝ近寄らぬ処を見れば、日頃女房に恋いこがれている我が心に附け入って、狐狸こりのたぐいが我をたぶらかすのではないか知らん、いや/\全く人かも知れぬ、兎も角も声を
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
露骨に云えばたぶらかされていたのだ。だが今は正気となった。憑物つきものは離れてしまった。ああそれにしても纐纈こうけつ布は、なんと俺には宿命であったろう
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
などと云うと、元よりたぶらかされているから
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それとも、この辺に妖怪あって、たぶらかそうためにこの異変を白昼演じて見せたのであろうか? それとも夢か幻か、ないしはこっちの心の迷いか?
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
公孫樹いちょうのきのお夏というからには、女に化けるに相違ない。素晴しい美男の拙者参って、あべこべに狐めをたぶらかそうぞ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いったい誰に射ったのか? 猩々に向かって射ったらしい? 何のために猩々を射ったのか? 紅玉エルビーたぶらかす悪獣であるとこのように思ったからである。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「そう云ってしまえばそれまでだが、俺はもっと知りてえのだ、何が山吹をたぶらかしたか?」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そうして若殿頼正は、今夜もこの家へ引き寄せられ、美しい娘の水藻みずもに化けた百歳のおうな久田のためにたぶらかされているらしい。しかも若殿頼正の生命いのちは寸刻にせまっているらしい。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
たぶらかし、わたし達の家へ入婿になり……
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)