襤褸らんる)” の例文
かくて一方には大厦たいか高楼こうろうにあって黄金の杯に葡萄ぶどうの美酒を盛る者あるに、他方には襤褸らんるをまとうて門前に食をう者あるがごとき
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
つまり彼は真白だと称する壁の上に汚い種々さまざま汚点しみを見出すよりも、投捨てられた襤褸らんるきれにも美しい縫取りの残りを発見して喜ぶのだ。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すなわち錦緞きんどん綸子りんず・綾・錦等の精巧なる織物を製造したるは、これわが邦人民の襤褸らんるさえ纏うあたわざるものありたればなり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「君は計畫に疲れたと云ふが、疲れついでに、君」と、氷峰は義雄に、「いツそ、ずツと格を落して、札幌に襤褸らんる會社を起して見たら、どうぢや?」
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
蓬頭垢面ほうとうくめん襤褸らんるを身に包み、妻子なく、家産なく、たゞ一ヶの大桶おほをけをコロガシ歩いて、飄遊へういう風の如く、其処そこの花蔭、此処ここの樹下と、一夜一夜の宿りも定まらず。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
手をこまねきて蒼穹を察すれば、我れ「我」をわすれて、飄然へうぜんとして、襤褸らんるの如き「時」を脱するに似たり。
一夕観 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
大家族を有つならば、彼が出来るだけ努力しても、襤褸らんると赤貧と、及びその結果たる社会における堕落とから、彼らを救い得るということでさえ、確信し得るだろうか。
自分はむさい色目も分らぬ襤褸らんるを着て甘んじ、慾得ずくからの職業産業から得るのでない食物を食って足れりとし、他を排しおのれを護る住宅でもないところに身を安んじ
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
批評家はこれを読んで嘲笑し、読者はあきれる。愚作家その襤褸らんるの上に、更に一篇の醜作を附加し得た、というわけである。へまより出でて、へまに入るとは、まさにいである。
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
身には襤褸らんるをまとい腰には縄の帯をしめ、醜穢をきわめていたものの、手に十字架を握り驢馬にまたがり、一度口をひらくや熱弁奔流の如くにほとばしり聞く者をして涙を流させ切歯扼腕させた。
ローマ法王と外交 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一個ひとり幼児おさなごを抱きたるが、夜深よふけの人目なきに心を許しけん、帯を解きてその幼児を膚に引きめ、着たる襤褸らんるの綿入れをふすまとなして、少しにても多量の暖を与えんとせる、母の心はいかなるべき。
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女史と相別れしのちしょう土倉どくら氏の学資を受くるの資格なきことを自覚し、職業に貴賤きせんなし、ひとしく皆神聖なり、身には襤褸らんるまとうとも心ににしきの美を飾りつつ、しばらく自活の道を立て、やがて霹靂へきれき一声いっせい
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
貧しい襤褸らんるにつつまれて 語られ終つたわびしい一つの物語り
駱駝の瘤にまたがつて (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
蓬頭垢面ほうとうこうめん襤褸らんるをまといこもを被り椀を手にして犬と共に人家の勝手口を徘徊して残飯を乞うもの近来漸くその跡を絶てり。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ゴルチャコフのごとき実にその人なりといえども、もし襤褸らんるまとうものをして体に適する新衣を穿うがたしめ、半ばは土を食うの窮民に向かって肉を与え
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
綺錦ききんの人もあれば襤褸らんるの人もある、冠りものをしてゐるのもあれば露頂ろちやうのものもある。
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
この桶中哲人ようちゆうてつじんを思慕する事はなはだ深く、一日彼を緑したゝる月桂樹ローレルの下蔭に訪ふや、暖かき日光を浴びて桶中に胡坐こざし、彼は正にその襤褸らんるを取りひろげて半風子しらみ指端したんに捻りつゝありき。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
開卷第一かいかんだいゝちに、孤獨幽棲こどくゆうせい一少年いつしようねん紹介しようかいし、その冷笑れいしようその怯懦きようだうつし、さらすゝんでその昏迷こんめいゑがく。襤褸らんるまとひたる一大學生いつだいがくせい大道だいどうひろしとるきながら知友ちゆう手前てまへかくれするだんしめす。
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
襤褸らんるの子ものかげに天をあふげり
駱駝の瘤にまたがつて (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
綺錦ききんの人もあれば襤褸らんるの人もある、かぶりものをしているのもあれば露頂ろちょうのものもある。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
其の旗の色とてもなき襤褸らんるなりけり
花より雨に (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
其の旗の色とてもなき襤褸らんるなりけり
花より雨に (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
生ける襤褸らんるをつたひて流る。