行灯あんどう)” の例文
旧字:行燈
行灯あんどう蕪村ぶそんも、畳も、違棚ちがいだなも有って無いような、無くって有るように見えた。と云ってはちっとも現前げんぜんしない。ただ好加減いいかげんに坐っていたようである。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と是から娘を連れて宅へ帰り、行灯あんどうけて娘の様子を能く見ると、年齢十八九にもなりましょうか、品のい、おんもりとした世にも稀な美人でございます。
勿論其の住民の階級職業によつて路地は種々しゆ/″\異つた体裁をなしてゐる。日本橋ぎは木原店きはらだな軒並のきなみ飲食店の行灯あんどうが出てゐる処から今だに食傷新道しよくしやうじんみちの名がついてゐる。
路地 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
爺いさんはその手を瀬田の腰の所に持つて往つて、脇差わきざしを抜き取つた。そしてそれを持つて、家を駈け出した。行灯あんどうの下にすわつた婆あさんは、あきれて夫のあとを見送つた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
腰元は驚き恐れつゝくだんの部屋を覗けば、内には暗く行灯あんどうともりて、お村ははぎあらはよこたはれるかたはらに、一人いちにんの男ありて正体も無く眠れるは、けだし此家このやの用人なるが、先刻さきに酒席に一座して
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
下町は知らず、我々の住む山の手では、商家しょうかでも店でこそランプを用いたれ、奥の住居すまいでは大抵たいてい行灯あんどうとぼしていた。家によっては、店頭みせさきにも旧式のカンテラを用いていたのもある。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
れから楽書らくがき一切いっさい相成らぬ、壁や障子に楽書を禁ずるは勿論もちろん、自分所有の行灯あんどうにも机にも一切の品物に楽書は相成あいならぬとうくらいの箇条で、すでに規則をめた以上はソレを実行しなくてはならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
音羽はそッと行灯あんどうもとへ来て鞘を払って合口を見ますると、錆も出ない様子ゆえ鞘に納めて懐へかく
行灯あんどうやランプと違って、電灯は便利に相違ないが、時々に停電するのが難儀ですね」
半七捕物帳:47 金の蝋燭 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
和尚おしょうの室を退がって、廊下ろうかづたいに自分の部屋へ帰ると行灯あんどうがぼんやりともっている。片膝かたひざ座蒲団ざぶとんの上に突いて、灯心をき立てたとき、花のような丁子ちょうじがぱたりと朱塗の台に落ちた。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
瀬田はきた。眩暈めまひおこりさうなのを、出来るだけ意志を緊張してこらへた。そして前にいさんの出て行つた口から、同じやうに駈け出した。行灯あんどうもとあさんは、又あきれてそれを見送つた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
物思わしげに悄然とたたずんでいるのが薄暗い行灯あんどうの火にぼんやりと照らし出された。
半七捕物帳:44 むらさき鯉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
横町を出て蕎麦屋そばや行灯あんどうを右に通へ出て、電車のある所まで来ると突然飛び乗った。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
廊下を這って来て、だん/″\行灯あんどうもとへ近づき、下からふっとあかりを消しました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あゝ降出して来て困るだろうと思って居ると、ドーと吹込む風に灯取虫あかりとりでも来たか行灯あんどうの火を消して真暗まっくらになりましたから、おくのは手探りで火打箱は何処にあるかと台所へ探しに参った。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
勇「まだが明けきらねえからだ、それにおれ行灯あんどうを消して寝るからな」
春部梅三郎はくだん隠家かくれがに一人で寝て居り、行灯あんどうを側へ引寄せて、いつぞややしきを出る時に引裂ひきさいたふみは、何事が書いてあったか、事に取紛れて碌々読まなかったが、と取出してなぐさみ半分に繰披くりひら
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
陰々寂寞いん/\せきばくと世間が一体にしんと致しましたから、此の時は小声で話をいたしてもく聞えるもので、蚊帳のうちで伴藏が、頻りにたれかとこそ/\話をしているに、女房は気がつき、行灯あんどう下影したかげから
抜足ぬきあしをして廊下を忍び来る者は、寝衣姿ねまきすがたなれば、たしかに源次郎に相違ないと、孝助は首を差延さしのべ様子を窺うに、行灯あんどうの明りがぼんやりと障子に映るのみにて薄暗く、はっきりそれとは見分けられねど
と才槌をひっさげて、よろめく足をみしめ、棚の側へ摺寄って行灯あんどうの蔭になるや否や、コツン/\と手疾てばや二槌ふたつちばかり当てると、忽ち釘締くぎじめの留は放れて、遠州透はばら/″\になって四辺あたりへ飛散りました。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と是から行灯あんどうを持って参り、夜具を貸して寝かしてくれました、美惠比丘尼は居間に這入り看経を仕舞い、蕎麦掻を少し喰べてから薄い木綿の座布団を内仏ないぶつの前へ敷き、足を組んで坐禅観法かんぽうをいたし
と内に這入って見ると、行灯あんどうの側に最前の金包がありますから
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
覗いて見ますと、行灯あんどう火光あかりがぼんやり点いて居ります。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
急いで行灯あんどうともして夫婦を通しました。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)