“蠅(はい)” の例文
こんなうるさい蠅(はい)でも、道連(みちづ)れとなれば懐(なつ)かしく思(おも)はれたかして、木曾(きそ)の蠅(はい)のことを發句(ほつく)に讀(よ)んだ昔(むかし)の旅人(たびゞと)もありましたつけ。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
と有合(ありあわ)せたる六尺棒をぐん/\と押振廻(おっぷりまわ)して居ります。飯の上の蠅(はい)同然、蜘蛛(くも)の子を散らしたように逃げたかと思うと、また集ってまいります。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
日向(ひなた)の学校の硝子(がらす)にこの間まで蠅(はい)がぶんぶん飛んでいたが、それももう見えなくなった。田の刈ったあとの氷が午後まで残っていることもある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
置いてある御馳走へは畳の塵(ごみ)が舞い上って自然と溜(た)まるし、長い時間中には蠅(はい)が飛んで来て不潔な汚点(しみ)をつける。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
が、不思議(ふしぎ)なのは、其(そ)の白無垢(しろむく)、何(ど)うして置(お)いても些(ちつ)とでも塵埃(ほこり)が溜(たま)らず、虫(むし)も蠅(はい)も、遂(つい)ぞ集(たか)つたことが無(な)い。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
街道の胡麻(ごま)の蠅(はい)みたいな一方の男は難なく捕り抑えたが、こいつもじつは梁山泊のひとり時遷(じせん)なのだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時にあの馬鹿者の金蔵……ああいう執拗(しつこ)い奴もないものだが、あんなのがゆくゆくは胡麻(ごま)の蠅(はい)、追剥、盗人、そんなことに落ちるのだ、心柄(こころがら)とはいえ、気の毒なものだ
或る処でグロオワアムと言ふ字を蠅(はい)に似た虫で夜後尾の方が光るものだと、先生が言つたら、生徒の一人が、先生それは蛍ではありませんかと言つたといふ話があるが
翻訳製造株式会社 (新字旧仮名) / 戸川秋骨(著)
若(ワガ)フたつて吾(ワ)ゴト好ギだテ言(ユ)ハデ連(つ)れダ夫婦(フフ)だネ。十年も死んだ夫(オド)サ義理立デデ、この上なに辛口(カラグヂ)きガれるゴドアあるベナせ。蠅(はい)ホロゲ、汝(ンガ)の飯(めし)の上の蠅(はい)ホロゲ、はゝゝゝゝゝ。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
目まぐるしい蠅(はい)のひと群(むれ)が旋(めぐ)る。
メランコリア (旧字旧仮名) / 三富朽葉(著)
南陽の諸葛(しょかつ)が廬(ろ)、西蜀(せいしょく)の子雲(しうん)が亭、何の陋(ろう)かこれあらんという事もあります。それに御掃除が行届いていて大層お綺麗(きれい)です。此方(こちら)には蠅(はい)がおらんで何より結構ですね。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
木曾(きそ)には毎年(まいとし)馬市(うまいち)が立(た)つくらゐに、諸方(はう/″\)で馬(うま)を飼(か)ひますから、それで蠅(はい)が多(おほ)いといひます。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
内親王のお用いになる糸毛(いとげ)ぐるまでもなし、従者も見えず、ただひとりの牛飼童(うしかいわっぱ)が、笹(ささ)を持って、秋の蠅(はい)を追いつつ来るに過ぎないので、かれは、杉の木陰(こかげ)にたたずみ、眼のまえを
「クドいやい、この胡麻(ごま)の蠅(はい)め」
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
蠅(はい)は何(なん)にでも行(い)つて取(と)りつきます。荷物(にもつ)をつけて通(とほ)る馬(うま)にも取(と)りつけば、旅人(たびびと)の着物(きもの)にも取(と)りつきます。蠅(はい)は誰(たれ)とでも直(す)ぐ懇意(こんい)になりますが、そのかはり誰(たれ)にでもうるさがられます。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)