ひきがへる)” の例文
下谷青石横丁したやあをいしよこちやうの、晝間も大きなひきがへるが出て來て蚊を吸つてゐるやうな、古い庭のある、眞つ暗な家に祖母と二人住んでゐて、硫黄仙人いわうせんにんとあだなされる
日本橋あたり (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
ぞくに、ひきがへるものだとふ。かつ十何匹じふなんびき行水盥ぎやうずゐだらひせたのが、一夜いちやうちかたちしたのはげんつてる。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
へえーアノなんですか、ひきがへるを。真「ひきがへるぢやアない、敷皮しきがはです、彼所あれいてあるから御覧ごらんなさい。甚「へえー成程なるほど大きな皮だ、熊の毛てえものは黒いと思つたらりアあかうがすね。 ...
八百屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
が、作用さようにはなにもない。たいして恐怖きようふいだ臆病者おくびやうものは、こともつ自分じぶんなぐさめること出來できる。すなはたい將來しやうらいくさいしひきがへるうちつて、生活せいくわつするとこともつなぐさむることが出來できる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
甥は手帛ハンケチのやうに真つ青な顔をして、短刀を白木しらきさやに納めた。猫の逃げ出したしたぱらでは、いつの間にか「武士道」と「孟子」とが帰つて来て、ひきがへるのやうに遠慮して、そつと溜息をついてゐた。
最も美しい石竹色は確かにひきがへるの舌の色である。
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ひきがへるの、いたはし顫動ふるへにふるひます。
うしうまか、ひきがへるか、さるか、蝙蝠かはほりか、なににせいんだかねたかせねばならぬ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
今時いまどきバアで醉拂よつぱらつて、タクシイに蹌踉よろんで、いや、どツこいとこしれると、がた、がたんとれるから、あしひきがへるごと踏張ふんばつて——上等じやうとうのはらない——屋根やねひくいからかゞごしまなこゑて
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)