落膽がつかり)” の例文
新字:落胆
ヘレン・バーンズはこゝにゐなかつたし、何も私を支へてくれるものはなかつた。たつた一人になつて、私は落膽がつかりしたのだ。涙は床板ゆかいたぬらした。
「ひどく落膽がつかりするぢやないか、——だがな八。聟にもよりけりだが命をねらはれる聟なんてものは、あまり有難くないぜ」
さも落膽がつかりした樣に言つて、『然しです、何か理由が、然う被仰おつしやるからには有らうぢやありませんか? それを話して戴く譯にはいかないんですか?』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
わたくしはもう落膽がつかりしてしまひましたよ、きみ。』と、かれ顫聲ふるへごゑして、冷汗ひやあせきながら。『まつた落膽がつかりしてしまひました。』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
あいちやんはすこべて、氣遣きづかはしさうに『何方どツち何方どツち?』とつぶやいて、何方どツちおほきくなつたかとおもつてあたま天邊てツぺんをやつてましたが、矢張やツぱりおほきさがおなじなので落膽がつかりしました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
お峰は車より下りて开處そこ此處こゝと尋ぬるうち、凧紙風船などを軒につるして、子供を集めたる駄菓子やの門に、もし三之助の交じりてかと覗けど、影も見えぬに落膽がつかりして思はず往來ゆききを見れば
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「さうへせえすりやえゝつちのになあ、おとつゝあは」おつぎは落膽がつかりしたやうにいつた。内儀かみさんとおつぎはうして熟睡じゆくすゐした身體からだ直立ちよくりつせしめやうと苦心くしんするほどむだちからつくしたのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
歩行あるいてあしとまるまで、落膽がつかり氣落きおちがしたらしい。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
見るに輕井澤まで二里餘とありあへぎ/\のぼりてやがて二里餘も來らんと思ふに輕井澤は見えず孤屋ひとつやばゝに聞けば是からまだ二里なりといふ一行落膽がつかりさては是程に草臥くたびれだけしか來らざりしかと泣かぬばかりに驚きたり是より道を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
奧さまがあなたは五十哩も離れた學校にゐらつしやると仰しやるとひどく落膽がつかりなすつたやうでした。
信吾の歸つた後の智惠子は、妙に落膽がつかりして氣が沈んだ。今日一日の己が心が我ながら怪まれる。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「そのことで、落膽がつかりして居ります。この小屋に取つては大事な米櫃こめびつで、へえ」
みねくるまよりりて开處此處そここゝたづぬるうち、凧紙風船たこかみふうせんなどをのきにつるして、子供こどもあつめたる駄菓子だぐわしやのかどに、もし三すけじりてかとのぞけど、かげえぬに落膽がつかりしておもはず徃來ゆききれば
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その男を送出して室に歸ると、後藤君は落膽がつかりした樣な顏をして眉間に深い皺を寄せてゐた。
札幌 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
平次は一方ならず落膽がつかりした樣子です。
と、お定は今の素振そぶりを、お八重が何と見たかと氣がついて、心羞うらはづかしさと落膽がつかりした心地でお八重の顏を見ると、其美しい眼には涙が浮んでゐた。それを見ると、お定の眼にも遽かに涙が湧いて來た。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)